80歳を超えてなお旺盛な創作活動を続ける日本を代表する現代詩人・吉増剛造。本作は彼が、ECD、灰野敬二、劇団・地点、飴屋法水とのコラボレーションでも知られる先鋭的なオルタナティブロックバンド・空間現代と、京都の小さなライブハウス「外」で2019年に行った、ある朗読ライブ《背》の記録だ。吉増剛造はその年の夏、かつて津波を引き起こした海に面する宿の小部屋で、窓の向こうの海に浮かぶ霊島・金華山を眺めながら、その地に足を踏み入れることなく、詩を書いた。それは今、世界が閉ざされる経験をした後の我々には予見的で、象徴的にも感じられる。その詩に歌人・斎藤茂吉の短歌からの引用を加え、マスクや目隠しを用いながら、声の限りに叫び、また朗読し、録音を再生し、ありったけの力で透明なガラスにドローイングする……。鬼気迫るライブ・パフォーマンスの全編を凝視し、詩人の言葉の“背”後を浮き彫りにする。