1970年代から80年代のドラッグカルチャー、ゲイサブカルチャー、ポストパンク/ニューウェーブシーン…… 当時過激とも言われた題材を撮影し、その才能を高く評価され一躍時代の寵児となったアメリカの写真家ナン・ゴールディン。2018年3月10日、彼女は多くの仲間たちと共にニューヨークのメトロポリタン美術館を訪れる。目的の場所は、製薬会社を営む大富豪が多額の寄付をしたことでその名を冠された展示スペース“サックラー・ウィング”。到着した彼女たちは、ほどなくして『オキシコンチン』という鎮痛剤のラベルが貼られた薬品の容器を一斉に放り始める。「サックラー家は人殺しの一族だ!」と口々に声を上げながら……。オキシコンチンは『オピオイド鎮痛薬』の一種であり、全米で50万人以上が死亡する原因になったとされる<合法的な麻薬>である。ナン・ゴールディンはなぜ、巨大な資本を相手に声を上げ戦うことを決意したのか。大切な人たちとの出会いと別れ、アーティストである前に一人の人間としてゴールディンが歩んできた道のりが今明かされる。