【絶妙なリズムと会話劇が活きたハードボイルドの名匠】アメリカ、ミズーリ州生まれ。父は性格俳優ウォルター・ヒューストン。カリフォルニア陸軍士官学校を卒業後、ボクシング選手、メキシコの騎兵隊などで各地を放浪するが、その間も小説や戯曲を書き続ける。1931年「北海の漁火」(ウィリアム・ワイラー監督)で脚本家としてデビュー。「聖ジョンソン」「モルグ街の殺人」(32) を書くが、その後ヨーロッパを放浪。38年に帰国してワーナーに入社し、「黒蘭の女」(ウィリアム・ワイラー監督)、「ヨーク軍曹」(ハワード・ホークス監督)などの脚本を執筆。41年「マルタの鷹」で監督デビュー。乾いたハードボイルド的な感覚と息をもつかせぬ演出で、主演のハンフリー・ボガートの個性を際立たせた。その後はしばらく記録映画を撮り、47年「黄金」を発表。“黄金”発掘をめぐって3人の男が欲望むきだしで闘う。ヒューストンの滅びの美学が濃密に出た作品でアカデミー賞監督賞と脚本賞をダブル受賞。続く「キー・ラーゴ」(48)では、フロリダ半島突端のキー・ラーゴにあるホテルを舞台に、ここを隠れ家にしているギャングたちと、居合わせた復員将校の凄絶な戦いを描く。51年の「アフリカの女王」は、ボガートとキャサリン・ヘップバーンが共演、酔っ払いと勝気な女の2人の掛け合いが楽しい一作。【ビッグ・スターの名演を引き出す】フランス印象派の画家ロートレックをホセ・フェラー主演で描いた「赤い風車」(52)、ハーマン・メルヴィルの名作の映画化「白鯨」(56)、オードリー・ヘップバーン唯一の西部劇でバート・ランカスターと共演した「許されざる者」(60)、クラーク・ゲイブルとマリリン・モンロー共演の「荒馬と女」(61)、旧約聖書を題材にとったオールスター大作「天地創造」(66) など、名優たちが競ってヒューストンの作品に出演するようになる。以降、エリザベス・テイラーとマーロン・ブランド主演の「禁じられた情事の森」(67)、ポール・ニューマンの「ロイ・ビーン」(72)、「マッキントッシュの男」(73)、ジャック・ニコルソンの「女と男の名誉」(85)などを監督。遺作となった「ザ・デッド」(87)では肺気腫瘍のため酸素ボンベを撮影現場に持ち込んで監督した。俳優としても独特の存在感を発揮しており、自作以外では「枢機卿」(64)、「キャンディ」(68)、「異常な快楽」(69)、「最後の猿の惑星」(73)、「チャイナタウン」(74)、「テンタクルズ」(77)、「モモ」(87)などに出演している。結婚歴は5度あり、4度目の夫人との間に、遺作「ザ・デッド」の脚本を執筆したトニー、主演のアンジェリカ・ヒューストンがいる。