【日本映画に新風を吹き込む映像作家】宮城県の生まれ。横浜国立大学美術学科在学中から8ミリ映画を作り始め、卒業後にミュージックビデオ演出に携わる。1991年よりテレビドラマの脚本・演出活動を本格的に開始、主に短編深夜枠という比較的自由な環境で異色作を連発し、一部から注目されていた。93年の『ifもしも/打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、劇場用映画未経験でのテレビドラマながら、同作で岩井は日本映画監督協会新人賞を受賞。また元々はビデオ向けの中編「Undo」が単館公開されるや連日満員となり、静かに浸透していた人気を知らしめた。映画企画においては企画書代わりに小説を書くこともあり、企画実現後に小説本として発表される。そのうちの1本は「ACRI」の原作となった。95年、ドラマ企画から発展した「LoveLetter」で長編劇映画デビュー。同作はキネマ旬報読者選出ベスト・テン1位など、若者層を中心に圧倒的な支持を受け、過去のテレビドラマや中編作も続々と劇場公開された。長編第2作「スワロウテイル」(96)は賛否両論を受けたが、「四月物語」(98)や映画監督と並行して手がけるビデオ映像など作品量が増すにつれ、一部からの反発も収まっていく。実験的な製作過程をたどり、社会事象的な少年犯罪を扱った「リリイ・シュシュのすべて」(01)の折には“遺作が選べるならばこれにしたい”との旨を発言。続く長編「花とアリス」(04)で前作の裏返し的な少女映画を作ったのちは、現時点(2009年8月)まで長編劇映画の監督作はない。近作は記録映画の「市川崑物語」や、「虹の女神」「ハルフウェイ」のプロデュース、アニメーション「BATON/バトン」の脚本など。【映画監督/映像作家】90年代以降に常態となった異業種監督のうち、ミュージックビデオ出身の若手は映像派の新世代として、一部から歓迎され、一部からは敬遠されるが、岩井俊二はその代表格。ビデオ映像の肯定、デジタル編集の目まぐるしいカット、セオリーを無視した撮影と編集といった特徴は、そのまま岩井が日本映画に持ち込んだものである。しかし「LoveLetter」「四月物語」「花とアリス」に顕著な、照れのないリリシズムは、男性社会で培われた日本映画へ確実に新風を吹き込み、97年のある雑誌は“岩井俊二は少女である”と題した特集を行なった。当初から映画製作への意志を保ち、市川崑・鈴木清順・円谷英二などへの敬愛も表明しつつ、シネフィル的な作家主義にも陥らない。映画のみならずサブカルチャー全般を援用し、“岩井美学”と呼ばれる映像世代ならではの世界を作りあげる、という点で“映像作家”と呼ばれる監督の一人である。