【伝統と新味を兼ね備えた21世紀邦画界の大黒柱】熊本県の生まれ。映像系の専門学校在学中から製作会社へ入社、テレビ番組の助監督としてキャリアをスタートした。インディーズ系映画にも積極的に関わり、岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」「LoveLetter」や、林海象監督の「私立探偵濱マイク」シリーズなどで助監督として経験を積む。監督デビューは1997年の「OPENHOUSE」(劇場公開は2003年)。この頃から“ポスト岩井”の呼び声が高かったが、これを見たプロデューサーから声がかかり、2000年公開の「ひまわり」を監督する。初の劇場公開作となったこの作品は、釜山国際映画祭で批評家連盟賞受賞。翌01年公開の「GO」はキネマ旬報ベスト・テンを始め、同年の各映画賞を総ナメにして、一躍、行定の名を世に知らしめた。その後も、年に1~2本のペースで作品を発表し続け、最初のピークを迎えたのが04年。片山恭一のベストセラー小説の映画化「世界の中心で、愛をさけぶ」が興行収入85億を叩き出し、この年の実写邦画ナンバー1の特大ヒット、“セカチュー”ブームを巻き起こす社会現象となった。吉永小百合・渡辺謙主演の超大作「北の零年」(04)では長期ロケを敢行。明治時代の北海道開拓にまつわるドラマを壮大なスケールで描き、大きな話題を呼ぶ。文芸大作「春の雪」(05)を手がけた後は、「遠くの空に消えた」や「クローズド・ノート」(07)など、再び身近な世界を扱ったドラマに立ち返り、小品もあわせてコンスタントに作品を発表し続けている。【岩井的な作風と新たな挑戦】岩井俊二のもとで助監督経験を積んだこともあり、初期の作品では、10~20代の若者の物語を美しい映像とともに綴る岩井的な作風が特徴だった。監督第1作「OPENHOUSE」や「世界の中心で、愛をさけぶ」など、要所で岩井を支えた名カメラマン篠田昇(04年没)を起用したことも、それを印象付ける。だが最近は、「遠くの空に消えた」のように、子どもの起用やセリフを多用した分かりやすいドラマ展開など、やや変化も見られた。また、助監督修業を経て監督デビューという、伝統的なキャリア形成を辿りながらも、古いものに縛られず、WEB作品や出身地熊本のFM局生番組など、新たな試みにもチャレンジ。撮影所的映画製作を志向する一方で、個人映画的な作品作りも両立し、邦画バブル以後の日本映画界を牽引する存在として、今後の活躍が期待されている。