【英国映画復興を担い、疾走し続ける新感覚映像作家】イギリス、ランカシャー州ラドクリフの生まれ。両親は労働者階級だった。ウェールズのバンゴア大学卒業後に舞台監督として活動を始め、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーほかの演出を手がけた。1980年代にはテレビ界へ進出、92年に人気ドラマ『モース警部』の2話を監督し注目される。94年、死体と大金をめぐるサスペンス「シャロウ・グレイブ」で劇場映画監督デビュー。ブラック・ユーモアとスタイリュッシュな映像が話題となり、英国アカデミー賞でもアレキサンダー・コルダ賞(優秀英国映画に授与)を獲得した。96年発表の第2作「トレインスポッティング」は前作同様の低予算映画ながら世界中で大ヒット、英国映画史上最も興行収入を上げるという成功を得た。翌97年にはハリウッドに招かれロマンティック・コメディの「普通じゃない」を監督。しかし、続くレオナルド・ディカプリオ主演の青春アドベンチャー「ザ・ビーチ」(00)は大ヒットに繋がらず、再び英国に戻ってテレビドラマを手がける。こののちに製作したホラー「28日後…」(02)は世界的なヒット作となった。やはり英国で撮った宇宙SFの「サンシャイン2057」(07)には、日本から真田広之がキャストに招かれている。08年の「スラムドッグ$ミリオネア」は各国で絶賛され、英国アカデミー賞では作品賞・監督賞など7部門を独占、米アカデミー賞でも作品賞・監督賞ほか全8部門を制覇する快挙となった。【英国映画界復興の起爆剤】50~60年代のフリーシネマ以後、衰退の途をたどっていた英国映画界において、80年代デヴィッド・パットナム製作作品群の盛況、90年代初頭のケン・ローチやマイク・リーによる作家映画の再燃を承け、新たな“イギリス・ルネッサンス”の興隆を担った。その先陣を切ったのが「トレインスポッティング」であり、マーク・ハーマンの「ブラス!」(96)やピーター・カッタネオの「フル・モンティ」(97)などとともに、英国映画の復興を海外に印象づけている。経済不況下の市井の人々を描く後続の社会派ハートウォーミング・ドラマに対し、ボイルは、ポップカルチャーを斬新な手法でスタイリッシュに描く作品群で英国映画人気を支え続けた。人気作家となって以後はジャンル映画にも臆することなく挑戦し、スピード感溢れる斬新な映像感覚と、英国流のブラック・ユーモアとで新たなファン層を開拓。「ザ・ビーチ」など米国製作作品の不発を鑑みて、非ハリウッド的な小品にこそボイルの手腕が発揮されるともみなされている。各国の映画賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」では、インド・ムンバイでオールロケ、現地人俳優を起用、現地の基本用語で撮り上げるなど、英国映画でありながらインド社会を掘り下げる表層を持たせ、なおかつハリウッド的エンターテインメントの味わいを含めるという新境地を開いた。