【アルトマンの後継者とも呼ばれる鮮烈な群像劇の才人】アメリカ、カリフォルニアの生まれ。父親はアナウンサー兼俳優。サン・フェルナンド・ヴァレイで育ち、高校生の頃から自主映画の製作を始める。ニューヨーク大学に入学するもののすぐに退学。ロサンゼルスとニューヨークでテレビ番組、ミュージックビデオなどの製作助手として働き始める。監督した短編「シガレッツ&コーヒー」(92)がサンダンス映画祭で注目されたことからチャンスを掴み、初の長編「ハードエイト」(96)を完成させる。次いで、高校時代に作った短編をふくらませた内容でポルノ映画業界の内幕を描いた「ブギーナイツ」(97)が批評的にも興行的にも大成功し、第一線に躍り出る。続いて発表した群像劇「マグノリア」(99)も、助演男優賞(トム・クルーズ)ほか3部門でアカデミー賞にノミネートされるなど成功を収める。2002年の「パンチドランク・ラブ」は、コメディ専門の俳優だと考えられていたアダム・サンドラーから鋭い個性を引き出し批評家たちからは好評だったものの、興行的には失敗作となった。しかし、シンクレア・ルイスの小説に基づいた次作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07)は興行的に成功を収めるとともに、主演のダニエル・デイ=ルイスにアカデミー主演男優賞をもたらすなど批評的にも大成功となり、アメリカを代表する若手監督としてアンダーソンの地位を盤石なものとした。【“VCR世代”も騎手として】自主映画等の経験を経て製作した短編をきっかけに、サンダンス映画祭で注目されて監督デビューを果たした新世代作家のひとり。当時80歳だったロバート・アルトマンが「今宵、フィツジェラルド劇場で」(06)を完成させられなかった場合の保険として、アンダーソンが交代の監督として控えていた(アルトマンは「今宵~」を完成させたが、これが彼の遺作となった)というエピソードからもわかるように、「ブギーナイツ」や「マグノリア」のように多数の登場人物を手際よく捌きながら皮肉とユーモアと共感を込めて描くアンダーソンは、しばしばアルトマンの後継者として語られる。自身もアルトマンからの影響を認めているが、ケヴィン・スミス、リチャード・リンクレーター、そしてクエンティン・タランティーノらとともに“VCR世代”(映画界での下働きや映画学校によってではなく、ビデオで浴びるように映画を観ることによって映画作りを学んだ映画作家)のひとりであるアンダーソンは、特定の映画作家ではなく、あらゆる作家のあらゆる技法を吸収する中で自らのスタイルを作り上げてきた。特に長回しを多用することで知られ、お気に入りの俳優を繰り返し起用し、長いワンショットによって彼らの生々しい感情を引き出すことに長けている。強烈な個性の人物が主人公の場合でも、個人を描くというよりも周囲の人物たちとの関係性に作品の重点が置かれる傾向がある。