【皮肉なユーモアで人間の深層心理をえぐるフランスの新鋭】フランス、パリの生まれ。11歳から父親のカメラで8ミリを撮り始め、1989年にパリ第一大学映画コースで修士号を取得するまでの間に30本の8ミリ映画を作る。90年、国立の映画学校フェミスの監督コースに再入学し、短編を製作。卒業後も次々と短編を発表し、「サマードレス」(96)でロカルノ国際映画祭短編部門のグランプリを獲得。短編の名手と注目され、中編「海をみる」(97)はロカルノ映画祭のオープニングを飾った。長編デビュー作は、毒気たっぷりのコメディ「ホームドラマ」(98)。一見ごく普通に見える家族が、父親が一匹のネズミを持ち帰った日を境に何かが崩壊していくこの作品は、カンヌ映画祭に出品されて話題を呼んだ。第2作「クリミナル・ラヴァーズ」(99)はグリム童話をモチーフにしたダークな青春犯罪ドラマ。第3作「焼け石に水」(00)はライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが19歳の時に書いた未発表の戯曲を映画化した密室劇で、性転換して女性になったキャラクターなど4人の男女の奇妙な関係を、ブラックな笑い満載に描いている。人間のタブーや愚かさや混乱を、戯画化したタッチで描いてきたオゾンだが、2000年、シャーロット・ランプリング主演の「まぼろし」でしっとりとした雰囲気の大人の女性映画を撮り上げ、新境地を開く。夫の蒸発を体験する50代の女性の心の傷、愛と喪失をシリアスに描き、国際的にも高い評価を得る。続く「8人の女たち」(02)ではミュージカル仕立ての密室ミステリーを展開。ダニエル・ダリュー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアールほか錚々たるフランス人女優が競演し、大きな話題を呼んだ。同作はベルリン映画祭の銀熊賞、ヨーロッパ映画祭の女優賞を獲得。映画作家としてさらなる幅を広げていく。【大人の女性を描くことに定評】「まぼろし」のランプリングと、「焼け石に水」「8人の女たち」ですでにオゾン作品の常連になっていたリュディヴィーヌ・サニエが顔を合わせた「スイミング・プール」(03)は、中年の女流作家を主人公にした心理ミステリー。女性の内面に深く斬り込み高く評価される。オゾンは自らをゲイと公言しているが、その女性的な面が生かされてか、女性心理の描写がことのほかうまい。同時に女優の魅力を引き出すことにも定評がある。04年、「ふたりの5つの分かれ路」ではあるカップルが離婚に至るまでを、時間軸を逆にたどりながら描く。「ぼくを葬る」(05)は死に至る病を宣告された若者が、残りの人生をひとり孤独に見つめる物語。「エンジェル」(07)では初の英語作品に挑戦。20世紀初頭のイギリスを舞台に、名声、富、愛を激しく求める女流作家の生涯を描き、複雑な内面を持つ新たなるヒロインを見事に生み出した。