【日常会話を駆使して男女の機微を描く空間造形の名手】京都府京都市の生まれ。多摩美術大学美術学部芸術学科に在学中から、竹中直人を輩出した映像演出研究会に所属し、8ミリ映画を作り始める。その中の1本「青緑」(88)がPFFアワード88に入賞し、最優秀女優賞と最優秀撮影賞を受賞。卒業後は映像制作会社に勤務し、企業のPRビデオの演出などに従事する。会社勤めの傍ら撮った8ミリ「私と、他人になった彼は」(91)がPFFアワード91で優秀賞、最優秀女優賞、観客審査員賞の三賞を受賞。その後は本格的に監督を目指して会社も辞め脚本を執筆、PFFのディレクターだった武藤起一のプロデュースにより、5年の準備期間を経た劇場デビュー作「avec mon mari/アベックモンマリ」を1998年に完成させる。男女4人の関係の中で、夫婦のあり方を独創的な会話劇として描いたこの作品に続き、もつれた四角関係をコミカルに見せていった「とらばいゆ」(02)でもその手法をさらに磨き上げ、キネマ旬報ベスト・テン第10位にランクイン、ヨコハマ映画祭で4部門を受賞する高い評価を受けた。第3作「約三十の嘘」(04)は、土田英生の同名戯曲に基づき、男4人女2人の詐欺師集団を、特急列車という密室劇仕立てで描いたドラマ。続く「NANA」(05)は、累計発行部数2,500万部を誇る矢沢あいの人気漫画を映画化した初のメジャー系作品で、興行収入70億円超のメガヒットを記録。以後も、あだち充の人気漫画を長澤まさみ主演で映画化した「ラフ」(06)、ヒットを受け企画された続編「NANA2」(06)と青春映画の旗手として疾走したが、主要キャストの一部が交代した「NANA2」の興行不振などもあって、結果としてここから4年間の沈黙期に入ってしまった。【会話劇と空間把握の才】PFF出身監督のひとりではあるが、ぴあの支援で商業デビューに直結したわけではなく、PFFを縁とする出会いからインディペンデントな映画作りで力を蓄え、メジャー系作品へ飛躍した自主映画系の新世代作家。「アベックモンマリ」や「とらばいゆ」の初期作品に顕著な特性は、芯の強い女性と情けなくも優しい男性をスパイスに、会話劇を通して独特の雰囲気をたたえた人間関係を綴ること。その面では「約三十の嘘」がひとつのピークとなったと言える。メジャー系の青春映画への起用もそうした資質を期待してのことだったが、万人受けを強いられる大衆娯楽作としては、本来の力が制限されたことも否めない。特質はデビュー作に現れやすいという観点に立てば、「私と、他人になった彼は」の長所は、引き目の構図や適度のカット割りでつくられる空間の距離感が、そのまま男女の感情の距離に重ねられて描かれる点にあった。この空間把握の才と会話劇、人間関係の妙。視点を大人の世界に戻し、代理母出産をテーマにした「ジーン・ワルツ」(10)が2010年に公開された。