【男の贖罪と女の愛を描き続ける韓国孤高の鬼才】韓国、慶尚北道の生まれ。山村の貧しい家に育ち、9歳でソウル近郊に移り住む。小学校卒業後は農業専門学校に進学。工場勤務を経て20歳で海兵隊に入隊し、5年に及ぶ軍隊生活を経験した。除隊後、1987年から翌年まで夜間の神学校へ。教会に2年勤務する一方、絵画制作にも没頭し、90年にはパリに渡って絵画を学んだ。92年の帰国後は脚本執筆に専念し、映画振興公社ほかの脚本コンテストに93年から3年連続で入賞。96年、「鰐」の脚本が売れた際に演出も申し出て、監督デビューを果たす。投身自殺を図った女と浮浪者との数奇な関係を斬新なタッチで描いた「鰐」は、国内の酷評に反しヨーロッパでは高評価。3作目の「悪い女・青い門」(98)がベルリン、4作目「魚と寝る女」(00)はヴェネチアと映画祭コンペに出品され、以後、国際映画祭の常連作家となる。日本でも「魚と寝る女」が2001年に初めて紹介され注目を集めた。引き続き「受取人不明」「悪い男」(01)と知名度を上げ、「春夏秋冬そして春」(03)は全米で200万ドル突破のヒットを記録。04年、援助交際に走る少女と刑事の父親のねじれた関係をリリカルに描いた「サマリア」でベルリンの銀熊賞を、また、留守宅に侵入する謎の青年を主人公にした「うつせみ」でヴェネチアの銀獅子賞を受賞。同じ年に三大映画祭の監督賞二冠に輝く快挙を果たした。その後も年1本のペースを守りながら独自の世界を打ち立て、死刑囚と無垢な女の交流を描いた「ブレス」(07)では台湾スターのチャン・チェン、夢と現実が交錯する恋愛劇「悲夢」(08)ではオダギリジョーといったスターを起用し、話題を呼んだ。【異色の経歴と異色の作風】年齢的には“386世代”に位置するが、一般的学歴も映画活動の経験もないまま独学の末に監督の地位を手に入れ、世界の舞台に躍り出た特異な出自の作家。ほぼ年1本の製作ペースを守る、韓国映画では数少ない量産の作家でもあり、基本的に低予算の作品で作家主義を貫いている。もともと画家志望で、原色を大胆にちりばめた映像美に定評がある。また「魚と寝る女」までの初期は連続して川や海の水辺が舞台となっているように、多くの作品で水がモチーフとして使われた。題材としては社会の底辺に暮らす人々に焦点を当て、反社会的・猟奇的な内容を描いて衝撃をもたらす。さらに女性の性をあからさまに扱うため、国内で賛否両論が巻き起こることもしばしば。韓国映画の異端児とは自他ともに認めるところだろう。貧しい生い立ち、軍隊生活、キリスト教での学びといった自身の半生を反映する作品も多く、いずれの作品も、男の贖罪がテーマとして絡んだ。男の暴力と激情と贖罪、そして女の崇高な愛が渾然一体になっていく独自の愛の世界に、ギドク作品の特徴がある。「悪い男」以降は商業性も徐々に強め、近年ではスター作品もみられる一方、業界批判で引退騒ぎを起こすなどアグレッシブな姿勢は崩していない。