【ジャンルの枠を越え、自らの歩みをドラマに投影する作家】ドイツ、バイエルン州の生まれ。ドイツ人の父とスイス人の母のもと、3人兄弟の末子として生まれるが、幼い頃にスイスのダボスへ家族で転居し、そこで育つ。12歳まで映画を見たことがなかったが、フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」(79)に触発されて映画の道を志す。1990年にニューヨーク大学に入学、映画製作を学ぶ。93年に卒業後、テレビドキュメンタリー2本をヨーロッパで製作したのち、ロサンゼルスへ移って自ら脚本を手がけた「Loungers」(95)を監督。長編映画デビューを飾った本作は、スラムダンス映画祭で観客賞を受賞した。その後、サンダンス映画祭ほかで高い評価を得た「Everything Put Together」(00)がプロデューサーのリー・ダニエルズの目に止まり、「チョコレート」(01)の監督を任される。心に傷を負った白人と黒人の中年男女の恋愛を通じて人種差別を描いた本作で、ハル・ベリーがアカデミー賞史上初めて黒人として主演女優賞を受賞。これが大きな話題となり、フォースターの名も知られるようになった。続いて、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のオファーを辞退して手がけた作品が、作家ジェームズ・バリの『ピーターパン』誕生にまつわるエピソードを描いた「ネバーランド」(04)。この作品でフォースターはゴールデングローブ賞の監督賞にノミネートされ、監督としての評価が確立する。その後、年1作ペースで順調に作品を重ね、08年には「007」シリーズの第22作「007/慰めの報酬」(08)に起用される。アクション映画の経験がなかったフォースターだったが、数々の監督候補を押しのけての大抜擢。結果はシリーズ第2位の興行成績を収める成功となったが、続けての「007」新作オファーは「シリーズものはもういい」とあっさり辞退している。【多彩なジャンルで"死"と"生"を描く】大学で映画製作を学び、インディペンデントでの映画づくりが映画祭等で認められてメジャーデビューを果たした新世代作家のひとり。「毎回ジャンルを変えたい」と語り、社会派ドラマ、スリラー、ファンタジーと多彩な作品群がフィルモグラフィーには並ぶ。一見、作家性が薄いように思えるが、どの作品でも“死”が一貫したモチーフとして存在している。家族を失った男女の出会いと再生を描く「チョコレート」、自殺願望の青年を担当する精神科医が夢と現実の間に迷いこむ「ステイ」(05)、コメディタッチの「主人公は僕だった」(06)も主役が死ぬ小説ばかり書く作家と、死を逃れようとする主人公の物語。フォースターは実の兄を自殺で亡くしており、それが作品に影を落としていると見られる。だが、重いテーマを扱いながらも、後味の悪さは感じない。それは、最終的に“死”を受け容れて再び歩き出す人々を描いているからだろう。このあたり、フォースターの人生に対する考え方が表れているようだ。「君のためなら千回でも」(07)以降は、ハーフである自分の出自を意識したか、物語も国境を越えるようになった。自らの人生を作品に反映する彼が今後どのような作品を発表するのか注目が集まる。