【録音部経験を活かして自主映画から羽ばたいた才女】東京都生まれ。プロレス、音楽、映画に慣れ親しんで育ち、20歳の時に映像作家かわなかのぶひろに刺激を受け、イメージフォーラム付属映像学校に入学。映画作りの基礎を学ぶ。情報誌『シティロード』に掲載された矢崎仁司監督「三月のライオン」(92)のスタッフ募集の記事を読み、録音技師・鈴木昭彦(井口全作の撮影監督)の助手として現場に参加。以後、黒沢清「地獄の警備員」(92)、矢口史靖「裸足のピクニック」(93)、小林政広「CLOSINGTIME」(97)、奥原浩志「波」(01)などにスタッフとして関わる。この時期に矢口史靖・鈴木卓爾両監督の「ONE PIECE」に出演するなど自主映画の現場にも触れた。のちにリメイク版「犬猫」のプロデューサーとなる榎本憲男が支配人をつとめるテアトル新宿でアルバイトをしながらシナリオを書き始め、約4年の月日をかけて処女作「犬猫」を8ミリで完成。PFFアワード01で企画賞を受賞し、翌2002年に中野武蔵野ホールで8ミリ作品としては異例のレイトショー公開され、盛況を呈する。同作は日本映画プロフェッショナル大賞の新人賞を受賞。04年、東京テアトルによる邦画レーベル“ガリンペイロ”の第3弾として、自らリメイクした35ミリ版「犬猫」で劇場映画監督デビュー。女性監督として初めて日本映画監督協会新人賞を受賞したほか、トリノ国際映画祭で審査員特別賞など3部門を受賞、デビュー作にして国際的な注目を集める。07年、監督3作目であり商業映画としては2作目となる恋愛映画「人のセックスを笑うな」を発表。山崎ナオコーラの原作小説を脚本家・本調有香とともに大胆に脚色し、単館公開ながら若い女性層を中心に口コミで人気を呼びロングラン・ヒットとなった。【長回しで役者から自然な演技を引き出す】映画学校や現場で基礎力を養いつつも、間口の広がったミニシアター興行の波に乗ってデビューを果たした自主映画出身監督。2000年代前半より台頭してきた若手女性映画監督の中で、作品本数はまだわずかながら注目度の高い作家のひとりである。“田舎としての東京の小さい家(「犬猫」)”“東京に通勤するのは厳しい北関東(「人のセックスを笑うな」)”など、自身の言葉から窺えるようにミニマムな環境から生まれる人間関係を、極力台詞を排して描くのを得意とする。録音部出身であることから、生活音や雑音、フレーム外で行なわれている動作など、台詞以外の音もアクションの一部として重層的に取り入れることでリアリズムを生み出す。ワンシーン、ワンカットで役者の演技をたっぷりと見せる長回しが多く、自然な演技を引き出すため、撮影前に俳優を自身が行きつけの整体へ通わせる、ジェンガをしながら読み合わせをさせるなど、独特の演出法を用いることでも知られている。故あって同居する20代女性ふたりの共同生活や、男女がセックスに至るやりとりを定点アングルで丹念に映し出す演出など、物語以上に一対一の人間関係を描写することに重きを置く作風である。