【映像の魔術師はハリウッドのジャンルを異化する】イギリス、サウスシールズの生まれ。二つの美術大学でグラフィック・デザインや舞台美術を学び、16ミリ短編映画を制作した。卒業後にBBCに入社、セット・デザイナーや番組演出を経て、1965年にCF製作会社を設立する。約1900本(本人談)のCFを手がけたのち、77年の「デュエリスト/決闘者」で映画監督に進出。弟のトニー・スコットも映画監督で、息子のジェイク、娘のジョーダンもともに監督デビューを果たした。ハリウッドで活躍する現在も英国に弟と共同で製作会社やスタジオを抱え、米英を行き来している。コンラッド原作による時代ものの「デュエリスト」はカンヌ映画祭で新人監督賞を受賞。これが20世紀フォックス上層部の目に留まり、SFゴシックホラー「エイリアン」でハリウッドに進出、大ヒットを記録する。続くSFハードボイルド「ブレードランナー」がカルト的な評価を得て、ビジュアリストの地位を確保した。大阪ロケの「ブラック・レイン」も話題を振りまき、女性2人組が主人公のロードムービー「テルマ&ルイーズ」でアカデミー賞の監督賞に初ノミネート。一時は低迷も囁かれたものの、史劇大作の「グラディエーター」がついに同作品賞に輝く。「羊たちの沈黙」の続編「ハンニバル」でヒットメーカーの地位も不動のものとし、以来、大作から中規模作品において様々なジャンルのハリウッド作品を監督し続けている。【異端なる者の視線】デビュー作から一貫して映像派として称えられてきた。バックライトやコントラストの強い照明、スモークもしくは綿埃や粉雪がたゆたう空間、長焦点レンズの多用……こうした“スコット印”を随所にちりばめるスタイリッシュな映像美が特徴。初期のヒット作「エイリアン」は闘う強いヒロイン像をハリウッドに定着させ、このテーマは「テルマ& ルイーズ」や「G.I.ジェーン」で繰り返された。多くの作品では、異文化に対面した人物、もしくは大状況に放り込まれた異端児の闘いを追うという共通モチーフが指摘されている。「エイリアン」は「ジョーズ」の変奏曲であり、「ブラック・レイン」はギャング対刑事の変種、「ブラックホーク・ダウン」はシニカルな「プライベート・ライアン」といったように、先行する作品やジャンルを外部の視点から異化していく作家としても捉えられよう。また近年は安定感のある大作監督として、ストーリーテリングの巧みさも注目される。