【人間の現実を真摯に見つめる“ニューシネマ”の継承者】アメリカ、カリフォルニア州サンタモニカの生まれ。父はテレビ演出家のレオ・ペン、母は女優のアイリーン・ライアン。子役として何本かのテレビドラマに出演したのち、「タップス」(81)、「初体験/リッジモント・ハイ」(82)などの映画で俳優として注目される。順調にキャリアを伸ばしていく中、1991年に製作と脚本も兼ねた「インディアン・ランナー」で監督デビュー。ブルース・スプリングスティーンの『ハイウェイ・パトロールマン』(ペンはこの曲のミュージックビデオも監督している)を原案に、アメリカ庶民の現実をえぐったこの作品は一部で高く評価された。俳優として「カリートの道」(93)に出演したのち、監督2作目となる「クロッシング・ガード」(95)をやはり製作・脚本兼で発表。幼い娘を自動車事故で失った父親が加害者への復讐の妄念に苛まれるこの作品に主演したジャック・ニコルソンとは、その後6年ぶりの劇場映画監督作となる「プレッジ」(01)でもコンビを組んだ。「11.09”01/セプテンバー11」(02)の一編を大ベテラン、アーネスト・ボーグナイン主演で演出するなど、俳優業と並行して寡作ながら個性的な作品を発表してきたペンに、監督として華やかな大きなスポットライトが当たることになったのは07年のこと。「イントゥ・ザ・ワイルド」の高評価によってであった。アラスカの大自然に挑み、そして散っていった若者を描くノンフィクションを映画化したこの作品は、アカデミー編集賞、助演男優賞(ハル・ホルブルック)獲得のほか、各映画賞にも多数ノミネートされ、翌2008年に「ミルク」でアカデミー主演男優賞を受賞(03年の「ミスティック・リバー」以来2度目)したこととも併せ、マルチな才能を持つ映画人としてのペンに改めて注目が集まることとなった。【シビアな人間観を作品世界に展開】ショーン・ペンはしばしば“アメリカン・ニューシネマの継承者”ないし“再生者”として語られる。オールド・ハリウッドの型通りのハッピー・エンディングや毒気の薄い人物造形が、大きな社会変革の時代であった60年代末から70年代初頭にかけてリアリティを失ったことで、多くの場合“死”や“破滅”に向かうことでしか自由を達成できない人間の姿を描いたのがニューシネマであった。破滅に向かって暴走していくことしかできない弟を見守る実直な兄を描いた「インディアン・ランナー」にも、殺された少女の母親との約束(=プレッジ)を守ることに固執することで破滅に向かっていく「プレッジ」の元刑事にも、大自然に立ち向かうにはあまりにも無防備なままで、結局は命を散らす「イントゥ・ザ・ワイルド」の青年にも、そのことは当てはまる。70年代半ばに“ブロックバスター時代”がやって来たことでほぼ駆逐された“ニューシネマ”のシビアな人間観を作品世界に展開させるアメリカ映画作家として、ペンはきわめて貴重な存在である。またニコルソン、ボーグナイン、ホルブルック、チャールズ・ブロンソンなど大ベテランの俳優たちから、日頃のイメージとは違った新たな演技を引き出して作品に深みを与えるのも、ペンの監督としての特徴であると言える。