東京都世田谷区の生まれ。父は往年の二枚目スター・佐田啓二で、貴一3歳の誕生日を目前にした1964年、交通事故で他界した。4歳上の姉は女優の中井貴恵。成蹊大学経済学部在学中の81年、松林宗恵監督「連合艦隊」の特攻隊員役で鮮烈に俳優デビュー。翌82年には藤沢周平原作のNHK『立花登・青春手控え』で、青年医師の成長を爽やかに好演する。充実の年となった83年、映画は、水上勉の同名小説を保坂延彦監督が映画化した「父と子」で、父の過去を受け入れられぬ高校生の葛藤を丹念に表現して演技に開眼。さらに、コミカルさを発揮する松林監督「ふしぎな國・日本」、当時人気絶頂の松田聖子の相手役でメロドラマを演じた河崎義祐監督「プルメリアの伝説・天国のキッス」、純朴なカメラマンの卵に扮した山田洋次監督「男はつらいよ・口笛を吹く寅次郎」と、出演作が相次ぐ。テレビドラマでも、山田太一脚本のTBS『ふぞろいの林檎たち』に主演し、学歴コンプレックスを持つ大学生を等身大に好演。時任三郎、手塚理美ら同世代の若手俳優とともに織り成す青春群像が視聴者の共感を呼び、85年、91年と続編を重ねる中で、登場人物たちそれぞれの成長過程も描かれて、いずれも好評を博した。大学卒業後の85年、市川崑監督が56年製作の自作を自らリメイクした「ビルマの竪琴」では、終戦後も僧侶となってビルマに留まり、かつての仲間たちとの再会にも決意の揺るがない水島上等兵を真摯に演じ、その頑ななまでの純粋さが観客の涙を誘った。続いて、連合赤軍のあさま山荘事件を背景にした小林正樹監督「食卓のない家」85では、家庭を崩壊寸前へ追いやりつつ繋ぎ止めてもいる過激派の学生を演じた。86年、かつて亡き父が主演した「喜びも悲しみも幾歳月」を木下惠介監督が自ら新たに甦らせた「新・喜びも悲しみも幾歳月」の出演を経て、山田監督のオールスターキャストによる松竹大船撮影所50周年記念作「キネマの天地」に主演。昭和初期の撮影所を舞台に、映画に情熱を注ぐ若き“カツドウ屋”をひたむきに演じた。さらに、伊丹万作の脚本によるサイレント映画の名作を保坂監督が82年にリメイクするも、オクラ入りとなっていた主演作「国士無双」がこの年ようやく公開。偽者に仕立てられたインチキ剣士を、とぼけた味わいで好演した。88年、高視聴率をマークしたNHK大河ドラマ『武田信玄』の主演をつとめ、国民的俳優に。さらに、「東京上空いらっしゃいませ」90で相米慎二監督と出会い、それまでの特徴だった硬質な折り目正しさのようなものが解きほぐれ、続いて相米監督と組んだ「お引越し」93でも、妻に愛想を尽かされるほど身勝手だが娘には愛情深い京男を、飄々と好演する。94年、忠臣蔵に現代的な視点を導入した新感覚の時代劇「四十七人の刺客」では、たびたび組む市川監督が、高倉健扮する大石内蔵助の敵役に起用。大石と息詰まる頭脳戦を繰り広げる策略家・色部又四郎をニヒルに怪演し、キネマ旬報賞、報知映画賞などの助演男優賞に輝く。以降も、気性の激しい妻の不器用な愛を受け止められない台湾人の夫役で存在感を放った平山秀幸監督「愛を乞うひと」98、熾烈なスクープ合戦にも冷静さを失わぬジャーナリストに扮した熊井啓監督「日本の黒い夏・冤罪」01、神格化された謎の術師に扮した滝田洋二郎監督「陰陽師Ⅱ」03などで、自らの殻を破り続ける。2003年、滝田監督「壬生義士伝」で、愛する者のためには金も命も惜しむ新撰組の無名の隊士を力演し、日本アカデミー賞、日刊スポーツ映画大賞の主演男優賞を受賞。中国のフー・ピン監督「ヘブン・アンド・アース/天地英雄」04では、唯一の日本人キャストとして中国奥地での過酷なロケにも耐え、その様子は著書『日記』に詳しい。さらに、ジヌ・チェヌ監督の日中合作映画「鳳凰・わが愛」07では主演のほかプロデューサーもつとめるなど、活躍の場を一層広げている。テレビドラマはほかに、フジテレビ『じゃじゃ馬ならし』93、『グッドモーニング』94、『まだ恋は始まらない』95、『Age,35/恋しくて』96、『セミダブル』99、『ウソコイ』01、『わが家の歴史』10、NHK『ある日、嵐のように』01、『武蔵/MUSASHI』03、『義経』05、TBS『スマイル』09、『99年の愛/JAPANESE AMERICANS』10など多数。緒形拳の遺作となったフジテレビ『風のガーデン』08では、末期癌で緒形演じる年老いた父に看取られる息子に扮し、熱演を見せた。12年のNHK大河ドラマ『平清盛』には、松山ケンイチ演じる主人公・平清盛の父・忠盛役で出演する。また、舞台も90年代から多数出演し、近年の作品に『グッドナイト・スリイプタイト』08、『コンフィダント・絆』07、『十二人の怒れる男』09、『カーディガン』11などがある。