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西部戦線異状なし
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ルイス・マイルストン監督のセンスが示されるとともに、彼が実際に体験した第一次世界大戦の経験が原作のレマルク(配偶者ポーレット・ゴダード)の意思と見事に重なり合う。 導入部の表現が特に素晴らしい。家の中で床を拭く女性。同じ部屋にいる男性が部屋をあけると郵便屋がやってきて自らの従軍を伝え、その向こうには軍服を着たドイツ軍の隊列が続いてゆく。主人公のポール(原作ではパウル)が、憧れの軍服を着て親に見せつける。母親は悲嘆し、父親は誇りに思う。この対位法がこの映画の軸となる。自らの意思ではなく、社会の趨勢に流されて戦争に向かう若者。男性と女性の感じ方の違いなど、この映画はありとあらゆる手法を使って現実を暗転させてゆく。 戦場のシーンの凄まじさは言葉を失う。とにかくこの映画は予算をふんだんに使って爆弾を落としまくり、爆弾のもとで悲惨な思いをする若者たちの姿、彼らの心理的な変化を正面から捉える。冒頭のシーンで、教師が生徒に愛国心を煽りトランス状態に導く。しかし戦争の実情は厳しく、主人公の仲間たちが次々に負傷してゆく。中でも足を失った兵士のブーツにカメラがフォーカスするシーンの表現が素晴らしい。足を失った仲間のブーツを履いて戦線に趣き銃撃される。この悲劇的な連鎖を足元で表現する。主人公がわだちでフランス兵を刺し殺す。刺殺した敵兵に水を飲ませるが死んでゆく。その敵兵の胸元には手帳に挟まれた家族のスナップが残される。 主人公が故郷に帰ると、教師が生徒の前で話しをするよう促されるが、彼にはそれができない。この教師に鼓舞されて戦争に赴いたものの、残されたのは彼の仲間の負傷と彼自身の心の傷だけだった。 そして再び戦争へ。しかし彼はあっけなく敵兵の銃弾を受けて死んでゆく。このシーンもまた美しく描かれる。彼の趣味である蝶の採集。戦場で目の前にいる蝶に手を差し伸べようとした瞬間、銃弾を受けて彼の腕の動きが止まる。彼の手は蝶に届かなかった。彼にとって蝶は幸せの象徴だ。その幸せをもう少しのところで手にすることができずに彼は息をひきとる。そこに十字架が並ぶ墓地のシーンがかぶさり、映画は終わる。救いのない戦い、無益な戦争を強調させる素晴らしいシーンだ。 言うまでもなくこの映画がスタンダードサイズの画面で展開するが、ワイドに比べて限定的な画角においては、奥行きのあるシーンがとても印象的だ。冒頭の窓越しに隊列が進んでゆくシーンや、兵士が宿営する向こうで雨が降り、そこを馬車が横切るシーン。あるいは戦場で画面のずっと向こうまで兵士が走っているシーンなどを見ると、ワイドで何もかも見せてしまう昨今の当たり前の画角に意味などないことを感じさせる。所詮人間の視野は限られている。どれだけスクリーンに幅を持たせても、見える部分は限られる。このように、この映画はありとあらゆるシーンで美しさを示すことで、よりいっそう戦争の悲惨さを強調させていると思う。
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