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横道世之介
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原作者・吉田修一が創り出した「横道世之介」という何とも愛すべきキャラを、高良健吾が見事に実体化してくれた。妙ちくりんな髪型、腰に手を当てて両肘を前方に突き出すかっこ悪いポージング。初対面に対しても図々しいところを見せるが、頼まれると断れない人の良さは魅力だ。 大学に入学した世之介が出逢う人々との交流を通して、懐かしい青春の日々が描かれていく。画面は唐突に登場人物達の未来の姿を映し出し、観客は一瞬戸惑うことになる。人生を重ね、ふと何気ない時に懐かしく思い出す人物。それが世之介だ。彼のことを思うと、みんな笑顔になる。人生に於いて、出逢って得したなぁと思える男なのだ。 「南極料理人」、「キツツキと雨」の沖田修一監督ならではの、全編に溢れるユルいお笑い感覚がとても楽しい。どの場面をとっても、ついニヤニヤさせられてしまう。間の抜けた会話の連続は脱力感が伴うが、何とも心地良いゆったりとしたリズムを刻む。これがまた世之介のキャラにピッタリの演出で、よりその人柄も伝わって来るというものだ。 世之介のガールフレンド与謝野祥子役の吉高由里子がまた嵌っている。原作も読んだが実にピッタリのイメージで、映画を観た後ではもう彼女しか考えられない。おっとりとした世間知らずのお嬢さんなのだが、そのお上品な言葉使いから世之介を上回らんばかりの図々しさまで、何とも愛らしく感じられる。一人で積極的に動き回る行動力も大したもので、それが意外な笑いに繋がる展開も実に楽しい。 日本語が次々と壊されていく現代社会を思うと、「ごきげんよう」とは何と快い響きを持った言葉だろうと思う。 映画を観る前は、160分という上映時間が長過ぎはしないかと心配になったが、それは杞憂に終わった。この世之介という男の素っ頓狂な言動を見ていると、何故か幸福感に包まれ、もっともっと彼と一緒に居たくなってしまう。十分に間をとった演出なのに、その長さが感じられない不思議。それこそがこの映画と世之介という男の魅力の証明ではなかろうか。
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