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鑑賞日 2025/03/04  登録日 2025/04/08  評点 55点 

鑑賞方法 映画館/神奈川県/横浜ブルク13 
3D/字幕 -/字幕
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よくできていて不快なわけ

 本作は、ビジュアルや映像編集として、シャープで美しくできていると感じるのだが、作品としては、かなり不快だったことについて書いておきたい。

 本作の不快さの原因は、別に「男性に支配され、従わされることに性的快感を得る」女性をヒロインとして据え、彼女が、突如現れた、あきらかに「支配し、振り回す」ことに喜びを見出す、S系の年下男性によって、その本性を暴かれていくという、ポルノ的な定型の展開にあるわけではない。また、若者との関係を模すことで、性的にうまくいっていなかった夫とうまく行きはじめる、という結末が「知的でセレブな女性にそういうところがあったらいいよね?」みたいな、男の願望をかなえる方向に沿っているからでもない。

 もちろん、本作がいろいろな点で女性蔑視的であり、男のエゴや低俗な欲望を満足させようとする傾向が強すぎるのは間違いない。40年たっても、まだ「ナインハーフ」か、と感じるのは事実だ。ただ、本作のような「地位の高い女性に潜む欲望を暴くことで精神的な満足感を与える」「美しい女性が支配される姿を見せることで、性的ルサンチマンを解消させる」類いの映画には、今も昔も需要があることは分かっているし、映画にさまざまな目的(用途?)があるのは格別悪いことではないし、それらが嫌いなわけでもない。

 本作を不快だと感じたのは、エンタテインメントであるはずの物語として、底が浅すぎる点だ。映画はすでに冒頭で、ヒロインが夫との行為の直後に、その手の動画を見ながら自慰行為をしている姿を見せ、夫の行為では絶頂に至っていないこと、そして彼女が真に望んでいるのは、支配されることである、とはっきり描いてしまう。そして、そのあとの物語は、その願望が実現していくさまを描いていくだけだ。つまり冒頭で、ほぼすべてのストーリーは見えている。その後の数十分、観客は何の驚きもなく、ただ出来事を見せられていくにすぎない。この展開のどこに「面白み」を感じろというのか。
 古くさい言い方かも知れないが、映画は「曲折」を楽しむものだ。主人公の感情や振る舞いがどのように変化していくのか。物語全体の価値観や善悪の立場が、どのように揺れ動くのか、それを観たいのだ。本作にはそれがない。だからこそ不快なのだ。

 今まさに、世界一の美人女優というポジションから、少しずつ後退せざるを得ない時期にあるニコール・キッドマンという、最高の素材をもってきながら、何の曲折も作り出さなかったことには、いち映画ファンとして、ぜひともきちんと不快の念を表したいと思う。