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鑑賞日 2025/01/08  登録日 2025/01/09  評点 70点 

鑑賞方法 映画館/神奈川県/横浜シネマリン 
3D/字幕 -/-
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道路工夫の歌

 タイトルからもわかるとおり「喜びも悲しみも幾年月」と同工異曲と言ってよい夫婦の苦節を描いた年代記風ドラマ。あの時と同じく佐田啓二と高峰秀子が夫婦を演じている。何度もインサートされる歌の方も同じく若山彰の歌唱である。
 歌集「道路工夫の歌」から取られた歌がエピソードの合間合間に掲げられる。この歌集にインスパイアされた監督が自ら脚本を書き下ろしたようだ。
 薄給ながら額に汗しての地道な仕事に精を出す義雄(佐田)。苦しい家計をやりくりする妻(高峰)。彼女の役名が「とら江」というのがクスグリになっている。ケンカになると何かとその名で呼び捨てにする夫。普段は「お前」が「とら」に変わる。妻はその名で呼ばれるのを嫌がっていることが織り込み済みなのがおかしい。
 そういった何気ないユーモアや意表をつくショットが映画を豊かなものにしていると思う。貧しい暮らしぶりを描くストーリーの方はいたってシンプルだしセンチメタルなものだけど、湿っぽくなりすぎないようにする工夫がうまい。
 義雄が初恋の人、千代(久我美子)の家を訪問するシーンもいい。ふたり縁側で花火を眺めながらポツリポツリと語り合う。一瞬義雄が手に持つコップがアップになる。泡が立っていてサイダーのようだ。次のカットでそれを見つめていたのは千代とわかる。コップから義雄の方に視線を変えておもむろに彼が書いたラブレターの話を切り出す。
 慌てる義雄。なにげないシーンだけれどそこに二人の密だった過去が浮き彫りにされるようなうまい演出。
 一人息子のキャッチボール、次のカットでやり投げの槍が地面にささるショット。これも何だかいかにもな演出だけどおかしい。起きることは事故なのだけど。
 ふたりが頭を下げながら懸命に働くのもすべては一人息子の成長ため。他に楽しみはなかったのか? でも戦後のある一時期、確かにこういう家庭が多かったような気がする。自分たちはダメだったけどせめて子には幸せになってもらいたい・・・という強い思い。自分もそんな戦争を経験した世代の両親だっただけに共感することしばし。
 息子の入学祝いにデパートの食堂で3人で食事をするシーンなどそのまんまの経験が自分にもある。何だか見ながら我が家のアルバムを繰っているようなセンチメンタルな気分になってしまった。