虚構の世界

　様々な男の間を渡り歩く芸者、小えんの生き様を小気味良く描いた小品。売春を斡旋するようなあまり上等でない置屋を舞台にしての芸者たちのしたたかな人生がスケッチされている。川島監督がもっとも得意とする舞台とテーマではなかろうか。
　そのせいか監督の意気込みが伝わってくるようなショットの数々に見惚れる。ヒロイン小えん役の若尾文子の魅力を存分に引き出そうとしている。
　小えんのいい人である建築家、山村聡の隣に浴衣姿でうつ伏せに寝そべる小えん。それを足元からのアングルで捉える。当然ふっくらとした臀部が強調される。いきなりお色気ムンムンである。本作はいちおう文芸映画らしいのだが成人指定扱いされている。今からすれば大人しいものだけど当時は刺激が強かったのだろうか、
　小えんの同僚芸者、江波杏子との会話でペッティングというセリフが飛び出したりしてちょっとびっくりする。体を売っている女たちをストレートにではなく婉曲表現で描き出す。そのほうが却ってエロかったりもする。
　芸者の生き様がテーマなのだろうけど、映画では多様に色分けされた男どもの描写も面白い。美人芸者を取り巻く男の見本市になっている。
　若い体だけが目当てのような山村、フランキー演じるクソ真面目な寿司職人、対照的にいかにも軽佻浮薄な山茶花究、そしてヒロインが密かに憧れている学生（藤巻）、そして弟のように無邪気な少年（高見）といった男たちの群像劇としても見ることもできる。
　そして結局小えんは男たちにとって刺身のつまのような存在でしかなかったという結末。虚構の世界での一時の儚い夢の一部始終。
ラスト目が覚めたようにして少年を連れて上高地へと出かける。そこで少年と別れ、ひとり駅舎に佇む小えん。その姿が再出発に向けた吹っ切れた女の姿にはどうにも見えなかった。どこか寂しさを漂わせたエンディングが後を引く。