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映画は昔から好きではあったけど、劇場通いは「怪獣映画」オンリーという世代。そこを卒業してからは自分の足は映画館へとは向かわなかった。多趣味なせいもあって映画はたまに覗く程度。集中して見始めたのは退職してからのここ10数年。歳だけはベテランの域だけど、映画好きとしてはまあにわかです。

MY BEST MOVIE

KINENOTE公式Twitter

鑑賞日 2025/03/13  登録日 2025/03/14  評点 80点 

鑑賞方法 映画館/神奈川県/横浜シネマリン 
3D/字幕 -/-
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政治とスポーツ

 政治がスポーツに介入するという騒動も間々起きる。ミュンヘン五輪でのテロ事件やモスクワ五輪ボイコットなどが有名な例だけど主に国際大会を舞台にした場では付き物と言っても過言でないぐらい頻繁に起きている。
 本作の元ネタとなった事件は2019年に武道館で開催された世界柔道でのひと幕らしい。当時報道されたのかもしれないけど自分は寡聞にして知らなかった。本作を観たあとちょっとその騒動を知りたくなって、ネットで検索してみたけれどそれほど大きく報道はされてはいなかったようだ。でもイラン代表選手(男子81kg級)が祖国の指令により出場を妨害されるという顛末は同じだった。本作ではそれがジョージアで開催された大会という設定に変えられ、また競技も女子柔道へと置き換えられている。
 イランとイスラエルとの関係が険悪なことは知ってはいたが、まさかスポーツの舞台にまでそれが頻繁に及んでいたとは驚き。北朝鮮選手が国の圧力を常に感じながら競技に参加している・・・ということはよく知られているけど、それと同様なことがイランの選手たちにも言えそうだ。イスラエル選手との対戦を避けさせる・・・ということは要は国のメンツを潰されないため・・・なのだろう。それが何よりも優先されてしまう国家が残念ながらいまだ存在する。
本作での見どころはもちろん国の命令で試合することを妨害された選手の怒りと葛藤であろう。イラン政府は選手の身内を拉致監禁までして出場させまいと妨害する。戦い勝ち抜き栄光を掴みたいという強い思い。でも家族も大切・・・板挟みにされる選手の葛藤シーンが観る者の胸を熱くする。
 本作は世界柔道での試合会場を主な舞台にしており試合の様子も頻繁に映される。でもスポーツ映画らしい爽快感は微塵も感じない。だって主人公が勝ってもちっとも喜べないのだから。むしろ勝利するたびに不安が増していく。これではスポーツ映画とは言えない。むしろ社会派サスペンスと呼んだほうがしっくりする。
 映画の彫りを深くしたのはその選手たちの監督の悩ましい立場を描いたことだと思う。選手は最後まで出場に固執するのだけど監督は違う。国の脅しにいったんは折れかかる。自身も過去に同様な経験をして嫌な思いをしているにも関わらず、自分の教え子に同じことをさせようとしてしまう。その罪の意識の重さに顔を歪めるザーラ・アミールの苦渋の姿にも映画の強い主張が凝縮されていた。選手と監督・・・ふたりはこの大会でどういう結末を導くことになるのか・・・やりきれない結末だけど主張は強く伝わる。
 本作はイスラエルの監督がイラン人のアミールを共同監督に招いて撮ったということが大きな話題となっているらしい。国家同士は敵対していても国民ひとりひとりの思いはまた別・・・ということだろう。イラン政府への批判に満ちた内容ゆえに共同作業も成功したのだとは思うが。国民同士の歩み寄りはできても国同士となるとうまくゆかない。それが焦れったい。