キーワードは嫉妬？

　リンチ監督による謎めいたドラマ。先行きが読めず途中から人物が入れ替わったように見えたり・・・とその映像マジックに翻弄される2時間。このような作劇だと普通ならわけがわからなくなって興味半減、途中で集中が途切れてしまうものなのだけど不思議に最後まで目が離せない。
　一見するとわけがわからないようだけど、人間心理の不可思議さとか見ているものの不確かさといったヒントが混迷した自分の頭の中である道筋を照らす光のようにも思えてきて、この謎をなんとか解いてやろうという気にさせ、ために集中が途切れない・・・といった感じだろうか。
　ある男の嫉妬心が引き起こした殺人とそこからの逃避・・・初見の自分はそんなことが描かれていたのではととりあえず分析。でも何度か観ればまた違った感想が浮かぶだろうと思う。一回観ただけではわからない、そういう一筋縄ではいかない作劇になっている。
　ジャズマンのフレッド（プルマン）がステージから自分の愛人レネエ（アークエット）とアンディーが仲睦まじくしている様子を嫉妬混じりな視線でみつめるショットが前半にあって、この嫉妬というワードがひとつのテーマというか引き金になっているのだろうなと推量。
　でもそのフレッドは唐突に中盤で逮捕監禁されてしまい画面からいったん消える。代わりに整備工のピート（ゲティ）の話にシフト。この切り替わりでまず観客はつまづく。でもここで登場するキレオヤジのエディ（ロッジア）がまさしくいやらしい嫉妬と暴力の塊として登場してきて観客を引き回す。エディの女（アークェット二役）に誘惑され手を出してしまうピート。エディの執念深さに怯えることになる・・・このピートのパートは犯罪映画ふうで実にスリリング。
　このふたつのパートの橋渡し的な役割を果たしているのが例のミステリーマンだろうか。実に不気味な男で何者なのかわからないけど、自分はフレッドとピートそれぞれの内面（嫉妬と恐怖）の具象化のようにも思えた。
　二重人格ものふうだけどその境い目の見せ方の不明瞭さがこの作品の魅力なのかもしれないなと思った次第。人間心理の不可解さの映像化ということでいえばこれこそもっともホラーらしい映画なのかもしれない。