希望のジャージャー麺

　人生に絶望した男と引きこもり女性との切ないラブストーリーを一風変わったシチュエーションで描いたユニークなドラマ。
　男（チョン・ジェヨン）は勤め先のリストラ、多額の借金、妻との喧嘩別れ・・と負の連鎖に絶望、漢江に飛び込み自殺をはかるが・・・という出だし。ところが死にきれず漢江の中洲にある無人島に漂着してしまう。いったん死を決意した男が状況の変化からか生きようともがきはじめるところがおかしい。
　無人島とはいっても都会のビル群は目と鼻の先。泳ぎさえできれば脱出することは可能なのだが彼はトンカチ。溺れながら人生の節目節目をフラッシュバックさせるシーンで男のダメさ加減がコンパクトに紹介される。
　でもこの島でサバイバル生活をしているうちに生きる喜びを知ることになる。ジャージャー麺をきっかけにした彼の底辺生活が見どころ。何とか憧れの麺を食べるために畑を耕しはじめる。麺から作ろうという作戦。
　そんな男を遠くのマンションから望遠鏡で見つけた引きこもり女。瓶詰めの手紙での文通が始まる。彼女も顔の痣のせいで世間の誹謗中傷にさらされ、こちらも男同様人生に絶望している。こんな崖っぷちのふたりのやりとりが最初こそコミカルながらも次第に熱く感動的にボルテージを高めていく様子がよかった。
　警備員に見つかり陸地に連れ戻される男。このまま無人島にいさせてくれと叫ぶあたりが皮肉である。男にとっての都会と無人島との差が歴然となるシーンだから。無人島での生活で生きる意味を見出した男にとって都会はあくまで絶望の象徴だったのであろう。
　呆然とした様子でバスに乗り63タワーを目指す男。つまり死ぬつもりでいる彼を追いかける女のショットがクライマックス。当時、韓国では春と秋に国防のために空襲警報が鳴らされ避難訓練が行われたらしい。それをふたりの出会いの伏線にしたあたりもうまかった。