コートジボアールから愛を込めて。

主要人物の視点でストーリーが語られ、パズルのようにそれを組み合わせながら全体を見つめる仕掛け。
観客には負荷がかかるが、一筋縄にはいかない人間を欲望を描いて、効果的だった。

フランスの牧場地帯、とある女性がクルマを置いたまま失踪する。バスやタクシーが利用できるような場所
柄ではない。事故か犯罪がからむのか、警察は慎重に付近の農家中心に動く。酪農家のミッシェルと妻の
アリスの夫婦関係は冷えている。アリスは酪農組合の仕事にかこつけて隣家の酪農家ジョセフに身を任す。
それを知っているようなミッシェルは忙しそうに家を出たり入ったり。
ジョセフにとってアリスの好意はありがた迷惑。それ以上に迷惑だったのが、自分の敷地に毛布に包まれた
女性の遺体が捨てられていた。ところが孤独を愛するジョセフは、物言わぬ女性遺体に異常なフェチシズム
を感じる。しかし出入りするアリスの姿が迷惑。ついにジョセフは遺体を、山奥の岩場の深い亀裂に落とす。
たぶん失踪した女性エヴリーヌなのだろう。永遠に見つからない闇に、ジョセフの身を投げてしまう。
時間軸を遡るが、エヴリーヌの私生活が描かれる。町のレストランで彼女はウェイトレスの若いマリオンと
知り合う。エヴリーヌはレスビアンでマリオンとの肉体関係を結ぶ。夫のいるエヴリーヌはたんなる遊びの
つもりで、関係を辞めるようとする。ところが肉体に火のついたマリオンは納得しない。
そしてミッシェルの挙動不審の謎が明かされる。彼はネットで知り合った金髪女性アマンディーヌに夢中に
なっていた。チャットで会話していると、リアルの恋愛感情が育ちコントロール出来ない。しかしその会話は、
遠く離れたコートジボアールの若者アルマンのなりすましだったのだ。彼は貧しい。ネットで拾った金髪女性
の写真と動画で、交際相手から金を搾り取るのが目的だった。ミッシェルは何も知らずに、アマンディーヌに
のめり込んでいく。実際に会う約束までする。妻とクルマで移動中に、ヒッチハイクの女性のためにスロー
ダウン。しかしアマンディーヌの写真にそっくりなマリオンを認めて、妻の眼から隠すためにマリオンを拾わず
にスピードアップ。ミッシェルはバーチャルの楽しみから、リアルなマリオンとエヴリーヌのトラブルに巻き込
まれていく。アマンディーヌのためなら邪魔者エヴリーヌさえ排除しようとする…。

それぞれの登場人物が過剰な欲望で、他者との関係を誤ってしまう。良かれと思うことが、一線を越えて
犯罪となる。なんとも皮肉な結果となる。巧緻な多角的スリラーで、思いもしない景色に絶句する。お見事。