実は先読みの難しいミステリー。

聾の工員・晋一は、職場でも飲み屋でも孤独な日々を送るが、立ち寄ったバーに勤める幸子に出会い、希望を持つ。しかし、息子の負担になることを悩む病弱な母親が、病床で死んでおり、枕元にあった市販薬からヒ素が発見され、それを買った晋一に尊属殺人の嫌疑がかかり…

市村泰一監督、香山美子主演作。共演は田村正和。聾に対する差別意識丸出しの時代、事件があれば容疑者にもされがちで、彼が家の前のパトカーを見て、逃げる晋一も理解できる。

また、幸子の弟が聾で、孤立した彼を姉が突き放したことで、一人線路を歩く弟が走り来る列車に気づかず撥ねられたエピソードが辛く、弁護士の強い勧めで量刑を軽くするため犯行を認めるよう幸子が晋一に話すことで、晋一が絶望するエピソードがさらに辛い。

ヒ素の混入の意外な真相など、偶然が重なりすぎて現実味は薄いが、ミステリーとしての面白みもある。ラストの二人は感動的だが、聴覚障害者への扱いは時代と共に移り変わっていることも本作で知る。判決後の裁判長の言葉に感動。

（BD-R 録画　CATV 衛星劇場）