本作監督の前作「ぶどうのなみだ」には疑問を感じたが、これは良い。祖母の顧客を受け継いだ小さな洋裁店店主の、祖母の仕事への敬意、そしてそれと裏腹な彼女自身のささやかな野心、それらが丹念な細部描写と共に描かれる。主人公中谷のつんとすました一分の隙もない洋装と、だらけたパジャマ姿のコントラストも楽しい。彼女の腕に惚れこんだ三浦青年の強引な「営業マン」スピリットが中谷を結果的に次のステップに進ませる、というコンセプトで、ほのかな喜劇テイストも上出来だ。