認知症の人たちが自己の体験した音楽によって治癒されていくなんて素敵なことだ。しかし、映画が素敵とは限らない。音楽を聴いた瞬間の歓びが映画に成りかける瞬間が何度もあるのだが、症状の説明をしつこく加えることで、瞬間の拡がりを抑圧してしまう。歓びを忘れた人をずっと追ったうえで、音楽との再会を描けば、映画的な説得力が出るのだが、患者さんの音楽を聴く瞬間を積み重ねるばかりなのだ。それと、明らかに後で音楽をミックスした場面が見受けられるのも残念だ。