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鑑賞日 2010/11/10  登録日 2025/01/10  評点 55点 

鑑賞方法 選択しない 
3D/字幕 -/-
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わざとらしく置かれた空缶に微苦笑

 高倉みゆき主演、1960年製作・公開の「女死刑囚の脱獄」。監督は「東海道四谷怪談」の中川信夫、脚本は助監督を務める石川義寛、音楽は松村禎三であります。白黒シネマスコープ、78分。

 資産家今井有通(林寛)は、娘の京子(高倉みゆき)を取引先の息子・明夫(和田圭之助)と政略結婚させやうとしてゐますが、京子には赤尾(寺島達夫)と云ふ恋人があり、彼の子供も身籠つてゐました。
 それを知つた今井は激怒しますが、その夜に飲んだ薬が元で急死。青酸カリが検出されました。何と京子のバッグから青酸カリが見つかり、義母美鳥(宮田文子)や義妹美奈子(三田泰子)の証言により京子に殺害動機ありとして、京子は尊属殺人の罪で死刑判決を受けます。勿論彼女は濡れ衣だと主張しますが......

 盛岡の女囚刑務所に送られた京子は、面会に来た赤尾から、真犯人は明夫であると告げられます。結婚を断られた腹いせだと云ふ。その話を信じた京子は、同房の君江(若杉嘉津子)と共に脱獄し、盛岡に移転してゐた明夫を訪ね問詰めます。しかし明夫は否定、彼女の無実を信じ態々盛岡に来たと云ふ。明夫に東京まで連れ戻す手助けをお願ひし、承諾する明夫。

 警察の警戒を搔潜り、何とか東京へ辿り着きますが、施設に預けてゐた自分の赤子が死んだ事を知り悲しみます。そして遂に京子と明夫は警察に確保されます。彼女の脱獄を知り狼狽するのが美鳥と美奈子。そして京子と明夫と接見した宮田警部(沼田曜一)は、真犯人は別にゐるのではないかと、再捜査を開始します......

 タイトルを見ると、脱獄劇がメインのやうに思へますが、実際には前半で容易く(一応サスペンスフルな演出を見せますが)脱獄してしまひ、物語の眼目は真犯人は誰かを探るミステリと申せませう。大蔵新東宝らしく、強引で荒つぽい展開です。尊属殺人とはいへ、状況証拠だけで即刻死刑まで一直線なのが不思議。当時は容疑者扱ひでも新聞に実名と顔写真がデカデカと新聞に載つてゐたのですねえ。

 前半の最大の見所、若杉嘉津子との脱獄場面も、松村貞三の劇伴でサスペンスを盛上げるものの、これといつた障害もなくあつさりと成功するのが拍子抜けです。真犯人の宮田文子、三田泰子、寺島達夫らの動機も弱い。何より高倉みゆき本人を亡き者にすれば手取り早いのに、父親の林寛を殺す意味が分かりません。寺島は高倉を捨て三田とくつつきますが、何とその母親の宮田文子とも肉体関係を結ぶと云ふ爛れぶり。

 沼田曜一が珍しく正しい警部役で、一度死刑と決つた案件なのに、真犯人は別にゐると直感、再捜査をします。しかも「責任は俺が取る!」と、事なかれ主義が蔓延る警察としては誠実な対応です。しかしそのリミットを、高倉が再び盛岡へ収監されるために乗る汽車の発車時刻までとするのは変であります。多分このリミットを設定する事でサスペンスを盛上げやうとの魂胆でせう。

 今一人の儲け役が和田圭之助。本来和田孝と名乗つてゐましたが、大蔵貢により改名させられました。脱獄した高倉を匿ひ、汽車では隠れる為に車外に出てしがみ付く危険も厭いません。警察に捕つた後も彼女を庇ひ、守ります。斯くも誠実で頼りになる男なら、父親の云ふ通りに最初から和田と結婚してをけば良かつたのに。要するに男を見る目が無かつたと申せませう。