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鑑賞日 2016/02/26  登録日 2025/03/28  評点 70点 

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3D/字幕 -/-
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梟のゐる都城

 1963年公開の「忍者秘帖 梟の城」であります。監督は工藤栄一、脚本は池田一朗、音楽は鈴木静一。助監督に山内鉄也。総天然色シネマスコープ、91分。

 伊賀忍者・葛籠重蔵(大友柳太朗)は、天正九年の信長による伊賀侵攻時に、両親を殺され、妹あゆら(立川さゆり)は雑兵たちに凌辱され自刃、家族を失ひました。
 それから十年、信長は光秀の乱で既に亡く、秀吉の天下になつてゐます。重蔵は同じ伊賀者の黒阿弥(河野秋武)と隠遁生活を送りながら、信長の後継者たる秀吉の暗殺を狙つてゐました。

 そんな彼の元へ、嘗ての師匠である下柘植次郎左衛門(原健策)が娘の木さる(本間千代子)を連れて訪れます。ついては秀吉暗殺を「仕事」にしないかと云ふのです。次郎左衛門は利害が一致する堺の豪商・今井宗久(三島雅夫)と手を組んだのです。
 早速今井の元へ行く重蔵。すると小萩(高千穂ひづる)と云ふ謎の女性が迎へに来ました。宗久の養女らしいが、他に何か目的があつて重蔵に接近したかに見えました。二人はお互ひに命を狙ふ関係ながら愛し合ふやうになります。

 一方で木さるの許婚者・風間五平(大木実)は伊賀から去つて三年、裏切者と目されてゐます。侍となつて京の所司代前田玄以(菅貫太郎)の部下として働きます。十年ぶりに再会した重蔵と五平は、いづれ命のやり取りをせざるを得ない時が来ると直感します。

 五平の背後には凄腕の甲賀忍者・摩利洞玄(戸上城太郎)がゐて、重蔵の師・次郎左衛門は豊臣・徳川に二股をかけて重蔵・洞玄の勝つた方につく魂胆であります。それを知つた重蔵は自ら師弟の縁を切り、次郎左衛門の元を去ります。
 それで次郎左衛門は自ら洞玄を斬らうとしますが、逆に殺されてしまふ。洞玄強い。更に黒阿弥も罠にかかり無念の死を遂げます。それを小萩から知らされた重蔵、愛し合ふ彼女と別れ、洞玄との決戦に向ひます......

 司馬遼太郎の原作(直木賞受賞作)を得て、忍者ブウムの中製作された一本。伊賀忍者・大友柳太朗と抜け忍の大木実の友情と対決が中心で、これに高千穂ひづるとの恋愛話を絡めてゐます。冒頭では立川さゆりの凌辱シーンがあり、大友の家族が殺されるなど、序盤で彼の悲劇を示します。三島雅夫を訪ねる場面ではイキナリ阿部九州男を殺すなど、非情なシーンもあり。

 大木実は忍者に嫌気がさし、侍になつて立身出世を目指します。しかしよりによつて菅貫太郎に仕へるとは。しかも戸上城太郎も一枚噛んでゐるので、もう先の展開が読めさうです。師匠原健策も思慮深いやうで考へが足りない感じ。三島雅夫は商売のタネを掴み損ねました。河野秋武はバカにした花沢徳衛に強烈な仕返しをされ、さぞ口惜しい最期だつたらう。

 ヒロイン高千穂ひづるは序盤の謎めいた雰囲気が中中良い。本来消さなくては不可ない大友を愛してしまつた葛藤が、無表情の下で表現されてゐたと思ひます。他方本間千代子は早々と河原崎長一郎と仲良くなり、二人とも何かと大友に反抗的だつたのに、ラストでは大友を「師匠」と呼んで高千穂ともども迎へます。

 全体に暗いムードで、一切の音を排した場面も多く、忍びの世界を上手く再現してゐました。もつとも本物なんか知らないけど。やはり戦ひのクライマックスはVS戸上城太郎戦でせうか。戸上の命乞ひから絶命するまでの流れも良かつた。しかし秀吉の寝室に忍び込みながら何もせず去つたのは物足りません。勿論その理由は語られ納得のいくものですが、映画的には肩透かしではないでせうか。「柳生一族の陰謀」みたいに史実を無視してワクワクさせて頂きたかつた喃。