社会福祉に精を出すサザエさん

　シリーズ堂堂十作目にして最終作、「福の神　サザエさん一家」であります。監督・青柳信雄、脚本・笠原良三＆蓮池義雄、音楽・神津善行。総天然色シネマスコープ、90分。

　サザエ（江利チエミ）は、夫マスオさん（小泉博）が課長に昇進するかもしれないとの噂を聞き、花村専務（高田稔）に挨拶へ出かけます。根廻しですか。厭らしいですな。花村夫人（藤間紫）はサザエを気に入り、児童福祉会への入会を勧めます。ソノ気になるサザエ。

　東京から越して来たエプロンおばさん（三益愛子）こと敷金なしは、新たに貸本屋を始めました。訪ねたサザエは店番を頼まれますが、早速児童福祉の精神を発揮し、子供は自由にタダ読みさせた為、息子の一郎（太刀川寛）はぼやくことしきりです。

　サザエは仲人山中老人（柳家金語楼）から、ある娘さんの婿候補を探すやうに頼まれます。「花婿は払底」してゐるとか。引き受けたサザエはエプロンおばさんに相談すると、かつて京都で下宿人だつた鵜の目高助（高島忠夫）の嫁にと考へ、見合写真を預ります。

　しかし中中話が進展しないので、痺れを切らした山中老人は他を当らうと、菓子屋に商売替したエプロンおばさんを訪ね写真の返却を求めます。ところがエプロンおばさんは山中老人と同様、630組の仲人実績があり631組目を目指すので断ります。そこへ高助がやつて来て、何と京子（浜美枝）と云ふ女性と既に結婚したと云ふではありませんか。

　サザエも夫マスオが課長に昇進するものと決めてかかり、課長夫人たるもの仲人の一つも出来なければと、エプロンおばさんの息子一郎と、山中老人の孫娘みゆき（横山道代）をお見合させカップル誕生させます。山中老人もエプロンおばさんも、身内の仲人をする訳にいかないと、サザエ夫妻が仲人をする事になりました。

　マスオの会社で人事異動の発表がありましたが、その中にマスオの課長昇進はありませんでした。がつかりするサザエでしたが、児童福祉会の活動に構ひ過ぎて主婦の仕事がお留守になつた事を反省するのでした。
　みゆきと一郎の結婚式当日、初の仲人に緊張しまくるサザエですが、マスオが中中現れません。時間ギリギリに漸くやつて来たマスオ、サプライズのニュースを持つて来たのです......

　と云ふ事で、遂に最終作。磯野家の面面も相変らずで結構。波平（藤原釜足）は妻フネ（清川虹子）の名を忘れ、子供に聞くのは二度目。一方フネが波平の禿頭を揶揄ふのも年中行事。余りシツコイと全国の禿頭人を敵に回します。カツオの白田肇は成長し過ぎ。並ぶとサザエよりも背が高いのです。しかしサザエは毎回カツオに悪戯されるのに、全然学習せず今回もコロリと騙されます。

　マスオの妹白川由美とその夫江原達怡は顔見せ程度。マスオの同僚脱線トリオ（由利徹、八波むと志、南利明）が復活しマスオの自棄酒に付き合ひます。その他常連は、沢村いき雄の紙芝居屋、横向夫人は塩沢登代治改め塩沢とき、交番のお巡りさんに藤田まこと、交通係の巡査に丘寵児。特筆したいのは多胡夫人の一の宮あつ子。さり気なく全十作に皆勤賞で、何かがあると磯野家の周辺に必ずゐる人物でした。

　タイアップはライオン。「素人物真似コンクール」主催で、賞品は勿論ライオン歯磨。サザエが座るベンチにもわざとらしく「ライオン」広告があります。
　当時の風潮としては、男は仕事、女は家庭で夫を支へると云ふ構図が当り前。妻は一歩下つて夫を立てる。男尊女卑と非難する事は容易いけれど、間違ひなくこれも日本であつたと云ふ事を忘れては不可ないと存じます。それにしても課長夫人が「上流夫人」とは、課長のステイタスは今とは可也相違があるやうです。

　「サザエさん」と云ふ人気キャラクタアと、「江利チエミ」と云ふ大スタアに負んぶに抱つこの面があるシリーズでしたが、「明るく楽しい東宝映画」の一角を担つたのは間違ひありますまい。足かけ六年、全十作に及んだ映画版はこれにて終了ですが、江利チエミはテレビドラマ版や舞台でもサザエさんを演じ続け、当り役としたのであります。