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鑑賞日 2012/07/23  登録日 2025/04/27  評点 70点 

鑑賞方法 選択しない 
3D/字幕 -/-
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恩人殺害の下手人探しに徹する

 シリーズ第六弾、「若親分を消せ」であります。監督は第一作目となる新人監督の中西忠三。と云ふか二作目はあつたのでせうか。他に監督作品を知らないのです。脚本は浅井昭三郎、音楽は渡辺岳夫で、軽さを感じるテレビドラマ風の劇伴。主題歌は橋幸夫ですが、不必要な気がします。カラー作品シネマスコープ、80分。

 南条組の二代目・武(市川雷蔵)は勤めを終へて出獄します。出迎へに来たのは亡父の兄弟分・弥五郎(伊東光一)。汽車の中で改めて武の出所を祝ふ弥五郎ですが、便所へ立つた際に何者かに襲はれます。武が気付いた時には弥五郎は倒れてゐて、「水上の鎧」と発して息を引き取りました。現場に残された短刀の鞘に描かれた蝙蝠(?)のイラストが手掛かり。

 武は下手人探しの為、水上の料亭観月楼に板前として潜り込みます。水上には「鎧組」と云ふ新興ヤクザがありました。探りを入れる為に鎧組の賭場に入り込んだ武は、イカサマを見つけてしまひ目を付けられます。素人が見ぬける訳はないと、出自を疑はれますが、当面は誤魔化す武です。

 武は悪漢に絡まれる芸妓・千代竜(藤村志保)を助けますが、彼女は故・秋月中佐の娘でした。秋月は海軍粛清運動の責任を負つて自刃した人で、武は何とか千代竜を身請けする方法はないか考へます。折しも彼女は高利貸の佐藤(水原浩一)が狙つてゐて、しかも佐藤は鎧組の組長・大吉(安部徹)と繋がりがあります。このままではイヤな男に身請されてしまふ。

 そんな時海軍の艦隊が入港し、友人竹村少佐(戸田皓久)と再会する武。何処に入港したのでせうか。武は海軍仲間に、千代竜が秋月中佐の娘である事を説明し、彼女の身請けのカネの金策を頼みます。弥五郎殺害の下手人については、「鎧組三羽鴉」のいづれかと睨む武。しかしそのうちの三田村の顔が見えないのを訝ります。

 「観月楼」の女将さだ(小暮実千代)を見守るのが、水上の良心とも云ふべき小日向組の親分・源八(佐々木孝丸)。さだの息子で海軍兵学校の勝巳(平泉征)と源八の娘英子(柴田美保子)は恋仲と云ふ関係です。鎧組としては源八が煙たい存在で、戻つてきた三田村(五味龍太郎)の手により殺害されてしまひます。

 怒りに震へる武は、もう板前ではなく南条組二代目として鎧組に乗り込み、源八の遺体を引取ります。その際、三田村が投げたドスを見て、例の鞘に納める武。蝙蝠柄がピタリと合ひ、弥五郎を殺した男は三田村だと確信するのです......

 過去作では、政財界とヤクザと軍部が結託して悪事を働くのを糾弾するパタンだつたのですが、本作では個人的な仇討となつてゐます。しかも何と板前に化けて下手人を探ると云ふストオリイ。手掛かりは現場に残された鞘と「水上の鎧」。鞘を置いて去るなんて有り得るのでせうか。余りに間抜けな刺客ではないか。そして「水上の鎧」も、水上へ行けば「鎧組」があると云ふ分かり易さ。もう少し捻つても良いのでは。

 ヒロイン藤村志保はシリーズ二度目の登板。秋月中佐の娘である事を隠して欲しいのに、海軍仲間にはバラすし、小暮実千代にもあつさり教へる雷蔵。少し口が軽くないですか。巻き込まれヒロインで、多分雷蔵に恋心を抱いたのに、最後は雷蔵がまた何処かへ行つてしまふ。最早渡り鳥のアキラとルリ子の世界となりました。

 小暮実千代は安定の存在感、佐々木孝丸はいつワルの顔を出すかと思つたら最後まで良い人、柴田美保子と平泉征のカップル演技は少し素人臭い。平泉征が知つたかぶりで雷蔵に海軍の何たるかを語る場面は面白い。軍人は仮令見習ひでも年長者を「君」呼ばはりするのでせうか。お馴染みの戸田皓久は申し訳程度の出演。鳳啓助&京唄子は、笑ひ要素の少ない本シリーズでは珍しい存在。

 鎧組三羽烏は五味龍太郎・草薙幸二郎・守田学。何れも憎憎しいザ・悪役といふ感じでよろしい。夫々に何か特徴的な技を設定すればより良かつた喃。そして今回は政治家も軍部も登場せずヤクザ界だけの世界で完結する為、安部徹がラスボスとなります。

 ラストでは雷蔵、鬼神の如く斬りまくる斬りまくる。お約束で藤村志保が人質に取られ一瞬ピンチになりますが、直ぐに反撃に転じ(その間藤村はまだ捕へられてゐるのに)何もなかつたかのやうに再び暴れる雷さまです。そして安部徹への止めの刺し方がえぐい。安部を追詰めて、ドスで斬れば良い所を、火車で圧死させ焼き尽くすのであります。おお怖い。

 色々変な所はありますが、只管雷蔵をカッコよく描くのが眼目の映画ですから、眼を瞑りませう。瞑れない人は観ない方が良いかも知れません。わたくしは十分愉しんだのであります。完成度と個人的な好みは別問題ですから。