ドアとジム

ドアーズではあるが，ジム（ヴァル・キルマー）の物語である．それでも彼はパムに出会い，レイ（カイル・マクラクラン）に会い，その詩を歌にしてバンドとしてのデビューを図る．ジムは映画を志望していたらしいが，ゴダール風を装ったその映像は特に理解されることも共感されることもない．
混乱はステージとパフォーマンスに持ち込まれる．インタビューでも煙に巻きつつも，インタビューアーでもあったインテリのパトリシア（キャスリーン・クインラン）と寝ることにもなっている．薬が傍にあり，酒やタバコもあるが，そうした薬物や経口する物とは近づいたかと思えば，遠ざかる同様に，ジムとパムの距離もつかず離れず，良好とも言えない関係として引きずられていく．パムは刃物を振り上げ，ジムは観念したかのようにしてみたり，窓から飛び降りようともしてみる．また，パトリシアとは血の儀式を催している．
やがて髪を伸ばし，髭を伸ばし，むさくなっていく．太ってもいるように見える．ステージだけでなく，ジムの周りは，赤い光と青い光に包まれている．炎がいつも音楽が流れており，動き続け，詩を読むようにして歌い続けている．ぐるぐると回っていて，「ハイ」をその中心に求めているとでもいうのだろうか．仲間達と砂漠にやってきて，深い気分に浸ろうとしていたこともあった．会場は手をあげて群れとなって騒いでいる．その群れにあった運動には，ただ自己愛だけがあったのだろうか．
ベトナムに限らず，外交や内政にも課題が多く見え始めた合衆国の60年代を，20代の若者として通り過ぎようとしている者たちが映される．それにしても彼女や彼らにとってのドアはどのような意味があるのだろうか．
裁判で争われているのは，ジムの公然わいせつ罪でもある．ジムはいつもドアの後ろを歌おうとしていたとも言える．こちらが生であれば，あちらは死となるが，そのドアはそれ以上に，こちらの運動が及ばない，魔法のような場所が見えている．