その外で，荒れる者たち

人力車の時代，紙タバコを手を添えずに咥えたまま吸っているのは歌（岩下志麻）でその夫，九反田の鬼政（仲代達矢）は八角のリングに闘犬が戦われているのを観戦し，威張り散らしてもいる．そしてトラブルになる．その相手には秋尾（夏木マリ）らが見えている．その時代のせいなのか，鬼政の言っていることややっていることは出鱈目であるが，ただ勢いがあり，その勢いが作り上げてきた権力がある．その権力に任せて，つる（佳那晃子）を囲い，養女として松恵（仙道敦子）を導き入れ，足りない何かを過剰に満たそうともしている．鬼政には，性欲よりも，家族のような血や忠義の繋がりを広げて君臨したいという意志が感じられ，そのアクの強さが彼を衝き動かすエネルギーにもなっているようにも見える．
布団の上で互いの頬を張らせ，嘘をついたのはどっちかを競わせている鬼政がいる．そして鬼政の一家に花子という妖精のような存在が加わってくる．土佐電の労働者たちは，鬼政とは違う方法で団結をして，世界の不備を改め，満たそうとしているようにも見える．こうした運動家の中に田辺（山本圭）がいて，鬼政と妙に意気投合をしてしまうところに逆説的な愉快さがある．田辺は性徴した松恵（夏目雅子）とも精神的に結合にこの三人は可笑しな関係に持ち込まれ，関係性が物語の進行とともに縺れ合い，綻ぶ．
石仏を彫って，長いドスを手にし，般若の顔を背に染めた白装束に身を包み，人力車で出陣さながら，仇のところへ乗り込んでいく鬼政にはありがちな任侠のあり方も見てとれるが，鬼政の過剰は，どこか空回りしているようにも感じられる． 鬼龍院花子（高杉かほり）は年頃になっても相変わらずヒラヒラとしているようにも感じられる．そんな彼女の欠格を補うようにして，松恵の度胸は座り，またかつては避けるようにしていた暴力にも傾倒していくようにも見えている．いずれにしてもここには中央から距離を置いた高知という濃い風土で醸成されてきたアウトローの気風が感じられ，鬼政や，あるいは松恵や花子にもその血が疼いているようにも見えている．