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鑑賞日 2025/04/12  登録日 2025/04/12  評点 75点 

鑑賞方法 テレビ/無料放送/J:COM BS 
3D/字幕 -/字幕
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周期からの逸脱

冒頭の闇と音楽からして狂気の沙汰を感じる.この闇は時々やってくる.インターミッションの後にもただ黒い画面が続き,音が聞こえている.また,エンドクレジットが出た後も黒い画面は続き,音楽が聞こえている.全体としては静謐な画面と音響であるが,その分,奇妙な音,警告音が耳障りでもあり,呼吸音やどこかから空気が漏れるような音が窒息や緊張を誘う.そして音の出どころもよくわからないように,闇がなぜこうも続くのか,わからない.それでも重要な場面で三度ほど現れる黒いモノリスをクロースアップしたものが闇であり,その闇は宇宙本来の闇でもあるらしい.
太陽の惑星二つが直列に並ぼうとしている.その太陽が地上から見え,空や一帯を赤く染めている.こうした天体的な映像は,宇宙船も浮かび,回る映像とも連動し,生命的で,性的なアナロジーすら感じさせる.不毛にしか見えないその土地には二種の哺乳類の群れが見え,接近しながら生活をしているらしい,動物の骨も見える ネコ科の肉食獣が猿のような個体に襲いかかってもいる.夜は青白い光があたりを照らしている 虫の声も聞こえている.そこに黒い人工的な石板が立っており,白い骨を手にし,頭蓋骨を砕く,そして肉を食っているのだから,かつて隣人であった四つ足の草食獣を食べるようになったらしい.こうした時空を超えたような冒頭部分もサイレント的に進行に,それなりの長さもある.
旅行者はまどろんでいる.ペンが浮いている.ゆっくりと船内を歩く女性の乗務員がいる.モニターが見える.地球との通信もできるらしい.ゆっくり歩く,この人間の運動は一貫しており,それは無重力の宇宙空間の運動としても見えるが,運動性能の面では人間は退化したかのようでもある.そしてこの運動の遅滞が,水平と垂直の関係を曖昧にして,天地無用と回転という惑星や宇宙船という外部の運動への余地を生む.
ステーションは車輪のようにゆっくりと回っている.窓の外では光る地球が,あるいは月面が動き続けている.白い光るような内装に,赤い奇妙な造形のベンチがある.のちにただ中心が赤く光る「ハル」のクロールアップが続けて挿入されるその布石にもなっている.月面基地での出来事は,未知のものへと向かい,宇宙評議会のフロイド博士(ウィリアム・シルベスター)の任務が示され,ボーマン船長(キア・デュリア)らを木星探査へと向かわせる動機にもなっているらしい.
閉鎖的かつ開放的な宇宙は,地獄のようでいて,天国のようでもあり,船長らは特に感情を示さずにいるつもりであっても,ハルとの欺瞞的なコミュニケーションは互いをやや逆撫でしているかにも感じる.こうした微妙な感覚がやがて強烈な視覚体験へと増幅されていくかにも感じる.ゆっくりと回っていたその周期が時間を超越し,あるものとあるはずもないものを見せようとしている.