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鑑賞日 -  登録日 2025/03/27  評点 91点 

鑑賞方法 VOD/U-NEXT 
3D/字幕 -/字幕
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青春の憂いと暴走

アメリカン・ニューシネマの代表作には必ず記憶に残るセンセーショナルなシーンがある。
この映画も強烈なラストシーンがあまりにも有名で、今更語る必要もないほどだ。
同時にアメリカン・ニューシネマの作品はどれも変なシーンが必ずあるように思う。
『イージーライダー』はずっと変だし、『スケアクロウ』や『俺たちに明日はない』にも同様によく分からない滑稽なシーンがある。
この『卒業』だと両親から潜水服をプレゼントされたベンジャミンがプールの底に沈んでいくシーンだ。
大学を卒業して先行きの見えない不安に憂鬱になるベンジャミンの心を反映しているようにも、何も決めたくないと無言の抗議を表しているようにも見える。

人はどうしてかつて醜いと思っていた大人になってしまうのだろう。
卒業記念パーティーでナーバスになっているベンジャミンに、次から次へと両親の友人たちが無責任な言葉をかける。
自分も若い頃はそっとしておいて欲しいと願っていた時期があるだろうに。

パーティーの後、ベンジャミンは父親の仕事のパートナーであるロビンソンの妻に、車で送って欲しいと頼まれる。
ロビンソン夫人は自宅に着いた後も、ベンジャミンに部屋までついてきて欲しいと頼む。
そして突如裸になりベンジャミンを誘惑する。
しかし彼女の方から手出しはしない。
彼女はあくまでも自発的にベンジャミンの方から接近するように言葉巧みに彼を誘惑する。
怖気づいたベンジャミンは慌ててその場を去るが、やがて自らロビンソン夫人の沼にハマることになる。

この二人の際どい関係性に嫌悪感を抱く者もいるだろう。
目標もなくダラダラ生きるだけのベンジャミンにとっては、ロビンソン夫人の存在は大きな刺激であり、救いだったのだろう。
やがてロビンソン夫人の娘エレインが帰郷する。
ロビンソン夫人はエレインには近づくなとベンジャミンに釘を刺す。
が、両親からしつこくエレインを誘えと言われたベンジャミンは、仕方なく彼女をドライブに誘う。
初めベンジャミンはエレインに嫌われるような失礼な態度を取り続ける。
が、実はベンジャミンはエレインに想いを寄せていたのだ。
傷ついた彼女の姿にいたたまれなくなったベンジャミンは、すぐさま謝罪し態度を改める。
やがて二人は恋仲になる。

が、ロビンソン夫人が許すはずはなかった。
嫉妬にかられる彼女の姿は醜い。
彼女は娘に秘密をバラすとベンジャミンを脅す。
が、ベンジャミンは自らエレインの真実を打ち明ける。
本当の愛があれば乗り越えられると思ったのかもしれないが、ショックを受けたエレインはベンジャミンを激しく拒絶する。
弁明する間もなくベンジャミンは追い出されてしまう。

正直、ここまでは退屈なシーンも多かったが、ベンジャミンが開き直って狂気に走るあたりから俄然面白くなった。
ベンジャミンは両親にエレインと結婚するつもりだと話す。
もちろん、エレインが承知するわけがないのだが。

エレインの通う大学まで押しかけ、アパートを借り、彼女を付け回すベンジャミンは完全にストーカーだ。
が、エレインもまだ彼に未練があるらしく、邪険にすることが出来ない。
むしろ彼女自身も無理と知りつつ、彼と一緒になりたいと心の奥では思っているのだ。
やがて彼女は医学生のカールと結婚を決める。

知らされていなかったベンジャミンは、狂ったように結婚式場を探し回る。
そして有名なラストの教会のシーンに繋がる。

こんなストーカーまがいの男と可憐なエレインが結ばれるという結末はあまりにも現実的ではない。
が、やはりお互いの名前を呼び合う二人の姿には心を動かされる。

これも他のアメリカン・ニューシネマの作品同様に、理想のアメリカ像の崩壊を描いた物語である。
誰もが羨むであろう上流階級の家庭に生まれ、将来を嘱望されたベンジャミンが、一度の過ちで道を踏み外していく。
彼の過ちのせいで両親もロビンソン夫妻も幸せのレールから外れることになる。
バスに乗って逃亡するベンジャミンとエレインは幸福そうな笑みを浮かべる。
が、こんな後先考えない男と一緒になって、家族も捨ててしまったエレインが果たして幸せになれるのか。
ハッピーエンドのように見えて、実は二人の先には暗い道が続いているのだ。

バックに流れるサイモン&ガーファンクルの名曲『サウンド・オブ・サイレンス』がいつまでも耳に残った。