罪滅ぼしとセックス

誠実な人ほど苦労をし、不誠実で不道徳な人ほど良い目を見るのはこの世の常だと思う。
が、果たして不誠実で不道徳な人が幸福かどうかは分からない。
自分の欲望を抑えて生きるのも苦しいが、自分の欲望に溺れるのもまた地獄だ。

これは男女四人の物語だが、その関係は少し複雑だ。
妻子と別居中の売れないシナリオライターの義彦は、大学時代の友人良介から留守番を頼まれ、東京から遠く離れた田舎町にやって来る。
同じ頃、良介の妻の綾も、友人の麗子に自身が経営する喫茶店の店番を依頼する。
こうして義彦と麗子は顔を合わせることになる。

物語が進むうちに、義彦と良介は学生運動で共に闘った仲であることが明かされる。
その時に義彦が付き合っていたのが綾だった。
やがてバリケードに残った義彦は逮捕されてしまう。
そして彼の服役中に良介は綾と関係を持つ。
驚くことにその時に良介が付き合っていたのが麗子だった。
良介も綾も、それぞれに恋人を奪って結ばれたのだ。
そしておそらくその罪滅ぼしのために、良介と綾は義彦と麗子を引き合わせた。

やがて義彦と麗子は互いに惹かれ合い、身体を重ねることになる。
このまま二人の関係は発展していくかに思われたが、良介と共にニューヨークに旅立っていた綾が突如帰国したことで展開はややこしくなって行く。

良介は相当なモラハラ男で、マザコン気質の男らしい。
綾に妻であるだけでなく、母親としての役割も押し付けようとする。
ついに我慢の限界を迎えた綾は、彼と離婚することを決意する。
そして何と彼女は再び義彦と関係を持つことになる。
義彦は麗子とも繋がりながら、どっちつかずの状態で綾と激しいセックスを繰り広げる。

ことを終えた後で、麗子からの電話に堂々と応える綾の肝の座り方が恐ろしい。
綾も義彦も平気で嘘を付く。
これが見ず知らずの関係ではなく、特に綾と麗子は長年の友人同士だということが尚恐ろしい。
麗子は綾に二度も裏切られたことになる。

人の気持ちは本当に分からない。
良介にも綾にも罪悪感はあり、罪滅ぼしをしたいという思いはある。
だが、それと同時に義彦や麗子を傷つけたいという思いもあるのだ。

とにかく官能的とは言い難い不器用で見苦しいセックスの描写が印象的だ。
まるでお互いの傷を舐め合うかのような虚しいセックスでもある。

正直、義彦にも良介にも麗子にも綾にも感情移入は出来ない。
が、ここで描かれる彼らの姿はとても人間くさく、生々しく、リアリティに溢れている。
人は思った以上に理性ではなく感情に流される生き物だ。
同じような立場になったならば、自分も義彦であり、良介であり、麗子であり、綾であったかもしれない。

原作は未読だが、とても純文学として優れた作品なのだろう。
脚本と台詞の数々が洗練されていて、見応えは十分だった。
ただ、やはり共感を拒むような内容でもあり、好きな作品にはなれなかった。