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学校III
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夜間中学、養護学校に続き、職業訓練校を舞台にした山田洋次監督『学校』シリーズの三作目。 大手証券会社に勤めていた高野だが、早期退職を迫られ辞職。 再就職の当ても外れ、職業訓練校に通うことになるが、プライドが邪魔をして馴染むことが出来ない。 中小企業の経理係を勤めていた紗和子も、一方的なリストラにより職を失う。 夫を過労死で亡くした彼女は、自閉症の息子トミーと二人暮らし。 常に逆境に立たされる彼女だが、それでも決して負けまいと前を向き続ける。 やがて紗和子と高野は互いに惹かれ合うようになるが、これは恋愛の物語ではない。 むしろ紗和子とトミーの母子の物語だと感じた。 この『学校』シリーズはどれも観る者の心を強く打つ。 それは綺麗事では済まされない残酷な現実の中で、それでも前に進もうともがき続ける人たちの姿が赤裸々に描かれているからだ。 他人と上手くコミュニケーションが取れないトミーとの生活は、紗和子にとって苦労の連続だ。 そしてその苦労は当事者にしか分からない。 だから第三者が簡単に入り込めないような距離を、観ているこちら側も紗和子に感じてしまう。 トミーの存在を疎ましく思う人々の心情も理解出来る。 突然声を上げたり、常識的ではない行動を取る彼の姿は、よほど彼のことを身近に接している者でなければすんなりと受け入れられない。 そもそも人は未知のものを恐れる生き物なのだ。 そしてその不寛容さもまた人間の姿なのだ。 障害を社会全体で受け入れるということは、言葉ほど簡単なことではない。 寛容であることはとても難しい。 トミーは何度も失敗をする。 その度に紗和子は謝罪をする。 しかしへりくだってはいるものの、紗和子は決してトミーを貶めたりはしない。 たとえ失敗をしたとしても、そのプロセスに正当性があれば彼の行動をしっかりと肯定する。 言葉が噛み合わなくても、紗和子はトミーを一人前の大人として接しようとする。 もちろん気持ちが通じずに、落胆することも多いのだが。 紗和子はとても強い人間だ。 しかし彼女は頑張ることに慣れすぎてしまったともいえる。 確かに彼女の境遇はとても厳しい。 それでも彼女には色々な選択肢があったのではないかと感じてしまった。 人は簡単には変わることが出来ない。 それは酒に溺れ、妻子と離れ離れになる生活を送ることになった高野も同じだ。 彼のプライドを捨てきれない気持ちも分かる。 人はコミュニティから離れると、あっさりと人との縁も切れてしまうものなのだ。 その現実を受け入れるのはとても厳しい。 それでも人は学ぶことを止めなければ、簡単に居場所が失くなることはないのだとも思う。 職業による差別もこの作品のテーマのひとつだと感じた。 職業訓練校に通う生徒たちが学ぶ技術は、ビルでいえば土台に当たる部分で生かされることになる。 彼らがいなければビルは成り立たない。 しかし、作業着姿の彼らがオフィスに入ると、サラリーマンたちは迷惑そうな、あるいは蔑むような目を向ける。 それは人が無意識に土台ではなく、その上にあるものを貴いと感じてしまうからだろう。 何かのきっかけで足を踏み外せば、簡単に下に落ちてしまう。 人は下にあるものは見たくないのだ。 これも残酷な現実の姿だ。 とても厳しい現実とは反対に、笑顔が絶えないのもこのシリーズの特徴か。 特に脇を固める田中邦衛、笹野高史、ケーシー高峰などのベテラン俳優の存在感が大きい。 トミーは断片的な会話しか出来ないが、モノローグの時だけ饒舌に話すことが出来る。 もしかすると外に出すことが出来ないだけで、彼の頭はずっと思考を続けているのかもしれない。
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