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鑑賞日 2025/04/14  登録日 2025/04/14  評点 80点 

鑑賞方法 映画館/神奈川県/TOHOシネマズ川崎 
3D/字幕 -/字幕
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心が抱えきれない時

演じることの醍醐味は、自分ではない誰かの人生を生きられることだ。
演じることで拍手喝采を浴びられれば尚嬉しい。
が、演劇の世界はとても苦しい。
何故ならば、演じることは自分の内面をさらけ出すことにも繫がるからだ。

刑務所と演劇はよく結びつけられるが、この映画を観て納得する部分が多かった。
受刑者たちは自由を拘束され、塀の外に出ることは出来ない。
が、演じる時だけ、彼らは自由な人間の姿に戻れるのだ。

ニューヨークに実在するシンシン刑務所内の収監者更生プログラムであるRTAを題材にした実話で、元受刑者が本人役で数多く出演しているのがとても興味深かった。
ドキュメンタリータッチな演出の効果もあり、かなりリアリティのある作品だと感じた。

中心となるのはプログラムの発案者でもあるディヴァインG。
彼はどうやら無実の罪により収監されているようだが、日々演劇に取り組み、仲間たちを支えることで希望を見出そうとしていた。
通称マイク・マイクはGの最高の相棒でもあり、二人はこれまでにも多くの舞台に出演したらしい。
ある日、刑務所内の問題児クラレンスがRTAに参加することになる。
彼は困難な現実に直面する人々の心を癒すのは喜劇だと主張する。
こうして様々な要素を盛り込んだタイムトラベルものの戯曲が完成し、彼らは本番に向けて稽古に励むことになる。

オーディションから始まり、稽古が積み上がっていく様がとても面白かった。
とにかく尖っているクラレンスは、演出もGの忠告も無視してしまう。
彼の態度は実は自信のなさの表れでもある。
彼は自分が釈放されることなどないと諦め切っている。
が、Gは希望を持つことをやめない。
ハムレットを演じることになるクラレンスに、Gが自分がこの劇場を支配する王様だと思えと声をかけるシーンが印象的だった。

いつも受刑者のために献身的に行動をし続けるGだが、それはその先に釈放という希望の光があるからだった。
だが、その光が失われてしまったとしたら。

誰かに手を差し伸べることが出来る人は、逆に自分が誰かに助けを求めるのが苦手なことが多い。
人が自分一人で抱えきれる容量にはキャパがある。
限界を越えて心が壊れてしまったら、元に戻るのはとても難しい。
改めて人に頼ることと、仲間を信頼することの大切さを考えさせられた。

この世の中は理不尽だ。
因果関係があるようで、ないことの方が多い。
何故Gは無実の罪で収監されることになってしまったのか。
何故人は突発的な病や事故により、あっさり亡くなってしまうのだろうか。
そこに意味を見出そうとしても無駄なのだろう。

ただ、行動の結果は必ず自分に返ってくる。
どれだけ逆風に立たされたとしても、人のために行動をした人間は、そう簡単に見捨てられはしないのだと思った。