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ジャッカルの日
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推理小説大好き少年だった私は、高校生の頃、フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」を読んだ。 原作は、1962年に起こったOASによるシャルル・ド・ゴール仏大統領暗殺未遂事件をもとにしたドキュメンタリー・スリラーとも呼ぶべき傑作である。 この小説は、私がこれまで読んできた、いわゆるエンターテインメント系の小説の中では最高と言ってもいい作品であった。 あれから40年近くたった今でもそう思うほど、読み応え抜群の素晴らしい作品であった。 フォーサイスは、ルポライターとしてこの事件を取材した経験を元に、本作を執筆している。 さらに彼は、ルポライターの前はロイター通信社の海外特派員であり、しかもその前は空軍のジェットパイロットも経験している。 こうした軍人としての実体験や、特派員として培った取材力が、後の執筆活動における人物描写と事実描写の説得力につながっているのだろうと推察する。 この素晴らしい原作を、監督のフレッド・ジンネマンは徹底したリアリズム描写で忠実に映像化した。 私は本作の初鑑賞は学生時代のレンタルビデオ。 その後も何回か見返し、10年ほど前には午前10時の映画祭でスクリーンでも観る機会を得たが、本作は見返せば見返すほど、原作を見事に映像化したジンネマンの演出意図が成功している作品だと感じられる。 例えばルベル警視が、若い警官から年老いた足の不自由な傷痍軍人のことを聞き、それがジャッカルだと見抜いてアパートの階段を駆け上がっていくクライマックスのシーン。 ジンネマンは、ルベルと警官の会話などのセリフは一切聞かせず、映像だけで分かるように描写しているが、このシーンは原作では克明に若い警官の心理描写が描かれている。 小説は、このように端役の人物の心理にさえ焦点を当ててサスペンスを盛り上げることも可能な媒体だが、映画でそのようなことをすると流れも止まるし、説明過多になる。 ドキュメンタリーの経験もあるジンネマンは、原作のリアルなタッチを損なわず、その上で映画化する上で映像表現の邪魔になるものを徹底的に削ぎ落としていることが分かる。 何なら映像表現を盛り上げる力を持つ音楽さえも削ぎ落とすことで、逆に原作の世界観を映像で表現することに成功している。 音楽は大変素晴らしいスコアもかけるジョルジュ・ドルリューだが、本作では決して音楽で盛り上げるような演出は一切されてない。 このジンネマンのリアルさを追求する演出が大変素晴らしい。 ジャッカルを演じたのは、当時はそれほど有名ではなかったエドワード・フォックス。 この役については、当初はロバート・レッドフォードも候補に上がったらしい。 ロジャー・ムーアもこの役をやりたくて、ジンネマンに直談判したそうだが、ムーアはジンネマンから「君では華がありすぎる」と断られたそうである。 だが、それはレッドフォードであっても同じだったはずである。 当時すでに三代目ジェームズ・ボンドを襲名していたムーアがこの役をやりたがっていたこと自体、とても興味深いし、またファンとしては見てみたい気もするのだが、しかしこの役はエドワード・フォックスで正解である。 ジャッカルを追い詰めるルベル役は「夜霧の恋人たち」や「好奇心」などに出ている、あまり華があるとは言えない地味な俳優マイケル・ロンズデール。これまた素晴らしい好演である。 フレッド・ジンネマンにとってこの作品には、世界一の殺し屋役にも、そしてそれを追い詰める刑事役にも、スターの華など一切不要だったのだろう。 脚本は「ブラックサンデー」のケネス・ロス。これも大変面白い作品であった。 そして本作のリアルな映像をキャメラに収めたのはジャン・トゥルニエ。 私は彼の名は「007/ムーンレイカー」で知っていたのだが、あの荒唐無稽で非現実的な作品を撮った撮影監督が、こんなにリアルなタッチの撮影をしていたと知って大変驚いたものである。 第二班の監督はアンドリュー・マートン、撮影はエドモン・セシャンが担当している。 マートンは「ベン・ハー」でヤキマ・カヌットと一緒にあの有名な戦車競争シーンを撮った人物であり、セシャンは「沈黙の世界」「赤い風船」を撮った名キャメラマンである。 さすが第二班も実力者を揃えただけのことはある。本作の映像クオリティは本当に素晴らしい。 この「ジャッカルの日」は、見事な原作を得ただけで成功した作品では決してない。 本作は演出・脚本・撮影・演技において、そのいずれもが淡々としたリアルさを表現しながらも、娯楽作品として第一級のスリルとサスペンスを堪能できる、フレッド・ジンネマンの素晴らしい大傑作であると思う。
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