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愛しのタチアナ
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ロードムービーだった。コーヒー中毒の仕立て屋ヴァルトが、コーヒーの準備もしてくれず彼をこき使う母親を戸棚に押し込んで、家を出、修理している車を取りに行く。車屋のレイノと一緒に延々と遠出する。ヴァルトはずっとコーヒーを飲み、レイノは延々とウォッカを飲んでいる。あるレストランでバスが故障して足止めを食っている女2人を乗せていくことになる。彼女らは2人はロシア人、もう一人のタチアナはエストニア人。彼女たちと一緒にタリン行きの船が出る港までのロードムービーが始まる。 レイノを演じているのはマッティ・ペロンパー、タチアナはカティ・オウティネン。アキ・カウリスマキ映画の常連だ。 男2人だけのドライブ中も会話がないが、女達を乗せてもずっと無口。食事する時も無口。男女がペアでホテルの同室で泊まっても何も無し。大体、カウリスマキの映画って性的な描写がないどころか、そんな感じを全く出さないよな。男女の物語を描いていても全くない。プラトニックなところを描きたいのかな。 レイノがタチアナを、タチアナがレイノを好きだと感じるのは彼らの視線が絡み合うところからだ。無口なレイノがヴァルトと一緒にタリン行きの船に乗ってしまうところは、彼の一途な感情を表現しているだろう。 これまで海の向こうの理想郷を目指す映画をたくさん撮っていたカウリスマキだが、ついに海の向こう側にいった。そして向こう側にレイノとタチアナの幸福があったのだ。 一人ヴァルトはフィンランドの家に帰ってきて戸棚に押し込んでいた母親を解放して終わる。 さて、このラストをどう取りますか。私は母親を戸棚に押し込んでから解放するまではひょっとしたら空想なのでは、と取った。カウリスマキの映画だったら、何日も前に押し込んだ母親がそのまま出てくる、という描き方はありそうなんだけど。女達と一緒に何日も家を空けていたのに、押し込んだ状態と出てきた状態が一緒なので、映画の本編が想像なのでは?と思った。だって、男2人が遠出するのにせいぜい1泊くらいしかしていないのに、女達と一緒になってから港まで行くのに何日もかかっている。いくらカウリスマキの映画でもつじつまが合わない。 そうすると、海の向こうのレイノとタチアナの幸福も、やっぱり空想の中の理想郷だったのか。
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