観客の予想を外すストーリーテリング

出演者の顔ぶれを見ると、和泉雅子主演で青山恭二が相手役の青春ものかと当たりをつけた
和泉雅子が中学生らしいセーラー服で下校してくるところから始まる。彼女の家はアパートの二階に在って、廊下を挟んで向かい合わせに部屋が並んでいる。和泉雅子は一旦部屋に入るが、ドアからそっと廊下を覗く。向かいの列の一番遠い奥の部屋から顔を出した南風夕子が中年の小太りの男を引き入れるショットがある。ドアから和泉雅子は窓に移り、隣の棟にある歯科診療所を見る。歯科医(波多野憲)が口を開けた患者(小園容子)を診察している様子が窓に見える。
どうしてこんなに細かく人の動きを一つ一つを点描するのだろう。いつもの日活青春映画のパターンではないような気がしてきた。
歯科医と映画を見にいく約束をして、そのことを自慢げに友人2人に教える。友人たちは本気にしないが、試しに映画館に先に入って和泉雅子が言葉どおりにデートできるのか観客席から見張っている。約束の時間に遅れて歯科医が来て彼女と一緒に映画館に入る。映画館から出た女子三人は歯科医に甘いものをご馳走になって、帰宅するとアパート前に人だかりがしていて、アパートの住人南風夕子が殺されていたことが分かる。刑事が右往左往している。
いろいろサスペンスものを見慣れているので、この映画の先ゆきが予想さるるのだが、それでも最後まで引っ張った話の運び方は評価したいと思う。女子中学生の歯科医への淡い暮情と、刑事たちの殺人捜査の進行とが、巧く噛み合って、遊園地でのジェットコースターや観覧車がサスペンス色を引き出す。
甘いマスクの青山恭二が出ていると青春物語になるかと予想したが、彼はあくまで刑事に徹して女子中学生和泉雅子に接していくのが良い。そのうちに主役2人の間には恋愛感情が芽生えるなどと、よくあるパターンの予想を外した。青山恭二の作品ではこの映画は上出来の部類に入る。
刑事たちも青山のほか、井上昭文、木島一郎、長弘、大町文夫、上野山功一と地味だが達者な役者が揃った。
草薙幸二郎が南風洋子の元カレで登場してサスペンス色を膨らませる一助を担った。
大物俳優は出ないが、アンサンブルの行き届いたキャスティングで、全体をまとめた演出力(中島義次)を評価したい。