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鑑賞日 2025/02/03  登録日 2025/04/19  評点 73点 

鑑賞方法 テレビ/有料放送/衛星劇場 
3D/字幕 -/-
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近ごろ清水宏

近頃になって、清水宏監督作品が楽しんで観られる。65分の小品だが、小品であることに却って味わいがある。B級作品の多い水島道太郎が文芸作品に出ているのを初めて観られたのも新鮮だった。

バスが山の中腹で故障して動かなくなる。運転手は水島道太郎である。峠に差し掛かる山道で、電話もなくて連絡の方法がない。通りかかる車を待つより仕方がない。
盲人、聾唖者、闇屋、元軍人、踊り子、産婆、片足を無くした人、それぞれが戦争を経て人生で多くのものを失った。たまたまバスが動かなくなって所在なげに時間を潰す中で世間話が湧いてきて、それぞれの不幸や災厄が会話の垣間から見え隠れする。盲人役の日守新一が橋渡し役になっていて巧みに話題が引き出されていく。相変わらず日守新一が巧い。

かつて想い合っていた男女が戦争で別れ別れになって、このバスで再会した。別れた後、女〈国友和歌子)は上京して別の男と世帯を持ったらしく、亡くした赤ん坊の遺骨を郷里の墓に埋めて東京に戻る途中だった。たまたま再会した昔の男はこのバスの運転手だ。女は2人きりになった時、一緒に上京して新たな生活を始めよう、と切り出す。運転手は黙っている。女は運転手がこのバスの車掌(三谷幸子)を想っていることを感じとった。
後続のバスが来て、乗客たちは乗り換える。女も想いを残しながらもバスに乗り込んだ。故障したバスには運転手と車掌が残った。
昔の男女の偶然の出会いと別れを余韻を残して終える。いい幕切れだった。

清水宏監督は相変わらず良い味わいを出す。「次郎物語」「小原庄助さん」「もぐら横丁」「何故彼女らはそうなったか」「母のおもかげ」と、この1年ほどの間に立て続けに観てきたのだが、大きなハズレがなかった。
これまでは何となく清水宏をスルーしていたような気がする。メリハリのあるシャープな映像に関心が向いていたように思う。清水宏の映像はその対極にあった。映画好きを自負しているにしては、大きな魚を見落としてきたようだ。