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鑑賞日 2025年  登録日 2025/04/08  評点 85点 

鑑賞方法 映画館 
3D/字幕 -/字幕
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「大穴」の空白を埋める饒舌

…映画観てるみんな、どうか聞いてくれよ…とばかり、始まって早々に話し出すその語り部…その名はミッキー。あのミッキーマウスを意識したネーミングかどうかはわからない。でも、このモノローグのテンションはほぼアニメだ。その止まらない饒舌は、人間の底が抜けた「大穴」の未来と、険しい氷雪の「穴」と迫りくる怪物の口の中の「大穴」を塞ぐのに充分だ。…大丈夫だよ…死んでもすぐに…生き返るから…。…再生可能な生体実験…生身の産業ロボット…死ななきゃいけない不死身…。その鉄砲玉の美学ならぬベーソスは、サーカスの泣き顔のピエロであり、ニーノロータ引用の曲はその哀しさをなぞる。…その都度死ぬ程怖いのに…何度も尋ねられる…ねぇ、死ぬってどんな感じなの?地獄の釜の開閉を何度も味わった彼は、人類以外の心理という不可解な恐怖とも対峙することになる。謎の怪物クリーパー。怪物達の人類への怒りは面妖にして不可解な恐怖へと凍りつかせる。…我々の声また声…おまえ達の眼を壊す…。聴覚ならぬ視覚を奪うとはどういうことなのか?五感は互換であり、火山の麓の湖水の水底のように繋がっていることなのか?なるほどミッキーも女性の香りを嗅覚ではなく、眼で奪われたりもする。そう。『パラサイト半地下の家族』のやや短絡的なあの凶行は「臭い」が見えたからかもしれない。五感の互換やら混同や混線により感情や心理の動きをコントロール出来なくなることで我を失うことは未知の死の恐怖とは違う意味で恐ろしい。だがあらゆる恐怖は、ミッキー17と18のような兄弟でもある。ポン・ジュノは、人間はあらゆる恐怖の前ですら平等なのだという視点からアメリカ映画の良心に合わせたようにも思える。だが、その一方では、「大穴」の空いたハリボテの理想の泥舟のようにその国を揶揄したりもする。どっちなの?と尋ねたかったが時間切れのように終わってしまった。その点は悔やまれるが、歯止めの効かない地球上の欲望の氾濫の最中における過渡期の作品として私は位置づけたいと思う。