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鑑賞日 2025年  登録日 2025/04/24  評点 90点 

鑑賞方法 映画館 
3D/字幕 -/字幕
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イナゴ達でさえひとつの国なのに。

日没の残像と夜の闇が淡くかき混ざる愁眉の時間…言葉はない…過酷な農作業その一日が終わる時に訪れるマジックアワー…その色…定住者と移住者の交わり織りなす鮮やかな色になるはずなのに…血は流された。そう。この映画はアメリカの「内戦」を描いていたと思う。ビルと妹のリンダと彼女であるアビー。三人はひとつの国だったと思う。…広大なアメリカを移動する小さな国だったのだ。ビルは別にアウトローじゃない…堪えてただけだ…感情を消しながら…三人の関係性は熱くなる…この国に生まれたのに職がない…そんな信用出来ない国を放浪するには…別の国を作るしかない。生きるための旅。何処の土になるかわからない旅。日々の労働の苦しさがそこに不安の言語化の気力を無くさせるのだ。三人の関係性を維持するためにひたすら働く。そう。アメリカと書いて、移動する民と読む。或いは流浪の民と読む。恋人である彼女をわざわざ妹と偽ったのは血の繋がりでありたいというビルの同胞意識ではないだろうか?農場主チャックはアメリカの典型だ。地に足を付けるどころか、余命僅かで埋まる土地も決まってる定住者である。なので、この映画はビルの国とアメリカの闘いである。放浪者と定住者の闘いなのである。墓の場所が全くわからない者とわかりきった者との闘いである。皮肉である。彼等が闘うべきは麦を食い散らかすイナゴなのに。イナゴたちには夜も昼も朝もない。繊細な時間の繊細な光と影への追想はない。微睡みの薬は必要ないのだ。ビルとチャックは繊細な光と影を忘れて、イナゴの複眼になったのだろうか?否。間違ってはいけない。イナゴ達は一丸のひとつの国である。昆虫ですら可能なことが出来ないのが人間なのだ。アメリカの傷を癒すはずの繊細な色が男達の嫉妬の激情の炎でふたつの国は燃えさかる。ジャン・ルノワールの『南部の人』は、台風の水害で河川か湖のようになった台地でひとつになった繋がりを表現したが、テレンスマリックはアメリカの夢と理想がイナゴに食い散らかされるマジックアワーの繊細さが溝に捨てられるような時間を敢えてみせた。あの日没と夜の狭間の美しい光と影はまやかしではないはずなのに。…来ない列車と廃線のような線路…女達は往く…時刻は何時頃だろう?…女達の"Better days"の色には見えない