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ザ・ルーム・ネクスト・ドア
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色々な境遇の女性たちが協働する生態を創出してきたアルモドバル監督。今作では元戦場記者マーサが人生最後の演出にして自らの死に方を仕掛けても奇矯ではない。謎めいた設定が冴えたサスペンスとなって物語を導いていく。 冒頭、以前、出版社の同僚だった小説家イングリッドの凱旋サイン会場。順番を待つ列を乱してもマーサの疾病を伝える女の友人が登場する。その場面を引き継ぐマーサの病室。アルモドバル監督がいつも重要な場所として描く病院の部屋。マーサが独白する身の上話がひとつの物語となってイングリッドの好奇心をくすぐる。生と死が混濁する空間に過去の時間が交錯する懺悔室の様相が醸し出される。畢竟、ピンク色に降る雪がふたりだけの秘めたる残像となって、マーサの謀りごとが静かに始まる瞬間は瑰麗の極みだ。 死を間近にしたマーサが成し遂げたいことは生き様を文字に残すこと。戦場で空疎な死に接してきた身だからこそ、自発的死を選択するに論を俟たない。安楽死や尊厳死とは異なる、死する権利として見届けてもらいたい意志が発露する。書き手をイングリッドにしたのは、共通の男友達から察し、彼女が自分に惹かれていると見なした人選。総てにマーサの思惑が隠された目論みとして、マーサの最期は用意周到に進んでいく。 ふたりが辿り着く杜に佇む終の棲家。マーサがその先にある玄関扉を言葉で指し示す。これまでのアルモドバル監督が意図的に描いてきた様々な扉とは全く違って表現したのは、それが心の扉だから。その奥に上下階に位置するネクスト・ドアが現われる。隣でなければ、次を示唆する扉。その存在意味を互いに信じることで、今が唯一無二の瞬間と見出したとき、扉は自ずと閉じた。 終幕、マーサの死後を託されたかのように次の扉が再び開くが如く清楚な余韻の場面が展開する。そこには、死とは生の一齣に過ぎないと沈潜する死生観を持って、人間讃歌を穏やかに綴る齢を受け容れたアルモドバル監督が、その傍らで慈愛に満ちて見つめているようだ。
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