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鑑賞日 -  登録日 2025/03/20  評点 85点 

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3D/字幕 -/字幕
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シンデレラストーリーなんてない!

長い歴史のあるアカデミー賞。その時代の空気感を反映、先取りしていると言われることがある。
今年の受賞作はどんな傾向があるのか私には論じられないけど、少なくとも万人受けする派手な作り(例えば「ウィキッド」みたいな作品→僕は「ウィキッド」は十分作品賞に値すると思うけど)より一つの特色あるシュチュエーションを地味に描き社会を見据える作品が重んじられているのかなと思う。

きっと、これから数年はこの流れが続くんじゃないか、高らかに正面から社会平和や平等を訴える作品は少なくなり、一捻りしているものが評価されていくような気がする。

と言うことで、作品賞を含め5冠に輝いた本作はかなり捻った作りになっているなと思った。(捻りは、観る前の予想との差異を生むこともあるので、今回はネタバレ注意で書きます。(大きく改行します)









本作の予告編、特に短いスポットだけ見ると、「ストリッパー(正確には違う、もっと先の行為が主)がロシア富豪の御曹司と恋に落ちるシンデレラストーリー!」みたいにうたっている。そこからのどん底まで言及している長めの予告編も、全体的には明るいトーンだ。

まさか、今更、身分差カップルのサクセスロマンのまま突っ切ることはないとは思っていたが、後半のあの奪われていく過程の中でも
どこかで一発逆転!が訪れることを信じていた。
「プリティウーマン」までは行かないにしろ、アニーになにか良きことが起きるだろう、起きて欲しいと願って、あの怒涛の展開を見守っていた。

でも、アニーには何も良いことが起きない。
そればかりか、くそ御曹司と出会うまでの生活や人間関係も根こそぎ奪われて、壊されてしまった。もう前の場所に戻ることさえできなくなったのだ。

前も見えない吹雪の中、毒吐く力さえ失ったアニーは唯一自分にできることであるセックスで隣に座る男にしがみつく。まさしく大海に投げ出された彼女が小さな木片にしがみついている感じの残酷なエンディングを迎える。
サクセスストーリーなんてあるわけない、
「プリティウーマン」なんて起こるわけない、
アニーよ、貴方が夢見た男はリチャードギアではない。金しかない中身の全く入っていないデクの棒なのだ。
だから楽しげに見えるアニーもバカ息子にはセックスと馬鹿騒ぎしかないのだ。

スポットやポスターにも使われている眩いくらいに輝いているアニーの姿は、まさに一瞬の「ドリーム」に過ぎないのだ。
そう考えると監督ショーン・ベイカーを有名にした「フロリダプロジェクト」にも通じる、切ないドリームの世界だと言える。

失敗しても、金さえあれば、過ちを謝ることさえしない。
富豪にとっては、一夜のバカな遊びの後始末でしかない。
金持ちは市井の人々の人生なんてこれっぽっちも考えることはない。
トロスが庶民の儀式をほっぽりかして、バカ息子の救出に行くことにも表れている。庶民のこと、娼婦のことなど微塵も考えていない

そんなどん底の世界ながら、その中でもシンパシーを感じ、絶望の彼女を抱きしめて寄り添ってくれる人が居る、
身分や見た目を超えたその「ドリーム」に縋って生きていくしかない。

アニー、あなたはアノーラではない
そう今まで生きてきたその名前、アニーのままで生きていってください。
何もかも潰されたけど、名前は残っているのだから、