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片思い世界
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広瀬すず、杉咲花、清原果耶。旬な、しかも演技も安定感ある女優陣が銀幕を飛び跳ねキラキラ輝いている。着ている服も三人の個性を生かして可愛い。観ていて素敵な“画面”だって少なくない。 そこだけにフォーカスして好き嫌いを語るなら、間違いなく「好き」なのだ。 なのにこの空虚感は何だろう。 そう思って他の人たちのレビューを見たところ、やはり評判があまり良くない。 多くのドラマで実力を見せ、特に「花束のような恋をした」が素敵だった阪元裕二だが、今回は前作「ファーストキス 1ST KISS」以上に荒い脚本で、とても残念。 加えて土井裕恭監督の凡庸さ(彼の映画すべて見ているが、良くできた話をそのまま映像化するのは得意でも、与えられた話を基に自力で改善・改良する創造性はない人、という印象)で、荒い脚本をそのまま映像化した結果、としか言いようがない。 なんだか女優陣の頑張りが可哀想になってきた。 そこで、レビューというより、こんな風に見たらどうか、という読解の話を書きたい。 ところでこの映画、ネタバレなしのコメントは困難なので、以降の文は既に観た人のみ読んでください。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本作の最大のネックは、2つ。 ひとつは、なぜ幽霊が誰にも気づかれないのに働いたフリをしたり、大学行ったりしているのだろう、という部分に納得感が薄いからだろう。例えば人が本当に寂しいのは一人で部屋にいる時ではなく、集団の中で誰も自分の存在に気づいてくれない時なのではないか? 例えば人が一番むなしさを感じるのは、一生懸命やったことが誰の役にも立たなかったと実感させられた時ではないか? そういった感情を「人と同じ日常を(疑似的にでも)過ごすことが健全」という理屈だけで雑に&安直に描いているので、なんだか荒い話だなぁと感じてしまうのだ。 もうひとつのネックは、とにかく主人公たちが何もできないという設定そのもの。現生を見られても関われない彼女たちには、物語を分岐させることもできず、主人公はおろか「ガヤ」にすらなれないのだ。 ただ…、考えてみるとこれって私たち観客の立ち位置と同じじゃないか? 映画を観ても観なくても日常は何も変わらない。それでも私たちは、観る前と後で、自分の中のどこかが少し変わったと感じる。変わりたいと感じる。 物語に関われず、ガヤにすらなれないけれど、それでも子供が車に閉じ込められていたら腰が浮くし、母親が殺人者に追いかけられたら、彼女たちと一緒になって母親に覆い被さり助けたいと思う。 彼女たちは、私たちだ。 本作は観客への、映画を好きな全ての人たちに向けた、人間賛歌かもしれない。 物語に入りたくても、灯台の上で叫んでも、結局、境界線を超えることはできない。でも、気持ちは共有できるのだ。片思い世界、そんなこと最初からわかっているけれど、それでも見守らずにいられない。手に汗握るし、彼女たちの幸せを本気で願う。気づかれもしないけど、すべてのシーンで私たちも同席しているんだよ。明かりがついて、劇場を後にしてからも、もう私たちはどこかで繋がっているんだよ。 この映画のファーストシーンがもし広瀬すずが劇場で映画を観ているシーンで、劇場を後にするところから物語が始まったなら、「これはみなさんを主人公と重ねて描いたメタファー的な作品です」、そんな導入シーンがわずか20秒あったら、きっと本作はもう少し粗が目立たない、愛すべき映画になっていたかもしれない。 勝手な味変だけれど、それでこの映画を大好きになれるなら、こんな片思い世界もありかもしれない。
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