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鑑賞日 2025/04/11  登録日 2025/04/15  評点 85点 

鑑賞方法 映画館 
3D/字幕 -/-
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作品をパラパラ見てから映画館に行こう

写真家・深瀬昌久の生涯をイギリスの監督マーク・ギルが映画化。映画的な表現も豊かな、見ごたえのある作品に仕上がっている。

これを書く迄気づかずにいたが、「実在する写真家を題材にした物語映画」は私の好きな作品ばかりだった。映画と写真家って相性がいいのかもしれない。
荒木経惟を題材に竹中直人監督が撮った「東京日和」とか、
浅田政志を題材に中野量太監督が撮った「浅田家」とか、
ユージン・スミスを題材にアンドリュー・レヴィタス監督が撮った「MINAMATA」とか、
広義で言えば半ドキュメンタリーながら、JRの制作過程をアニエス・ヴァルダ監督が撮った「顔たち、ところどころ」なども入るかもしれない。
他に何かあったかな? 単に写真家が主人公の映画ならヒッチコックの「裏窓」を筆頭にいくらでも出てくるのだが、「実在する写真家の実録もの(≠ドキュメンタリー)」となると意外に少ないのかもしれない。

これら傑作群に共通して言えるのが、映画を観る前にチラ見でもいいからその写真家の代表作を見ておくべき、ということ。なぜならどの映画もキメのシーンが、その作家の代表作と重なるように作られているからだ。
本作も御多分に漏れず、物語の要所要所でそのシーンに該当する深瀬の作品が映り込む。
深瀬昌久が生きる瞬間がそのまま静止画になっていくので、「深瀬の人生がいかに写真と結びついていたのか」が実感できるとともに、「映画と写真という表現手法がいかに地続きなのか」まで感じられる。それを監督マーク・ギルは意図的にやっている。だから事前に深瀬の作品を知っていると、観る側が映像を見ながら「あぁ、この流れでこの写真なのか…」と不思議な追体験ができるのだ。

役者のことも褒めておこう。
浅野忠信は破滅型クリエイターを演じて実に上手い。難破船のようで、自身の事すらよく判らず、常にもがいている危うい感じが自然に伝わってくる。
瀧内久美も、芸術家の妻として表現されがちな「一番の理解者でミューズでパトロン的な存在」ではなく、「写真なんかで芸術家気取りなの?」みたいな、「もっとちゃんと稼いできてよ」みたいな普通の感性なところが、妙にリアリティがあって面白い。
二人とも “純度の高い映画俳優”なので画面に重さがあるところもいい。

それにしてもマーク・ギル監督、イギリス人ながら日本の昭和という時代を見事に再現できていて、感服する。昭和を生きていた自分からすると、下手したら日本の若者よりずっとリアルに昭和を理解できているのではないかという気がする。その洞察と表現のセンスに敬意を表したい。