図書館に勤めていた茜は、上司、藤江田の激しい求愛に結婚を決意した。藤江田には背中に刺青を持つ菊岡春菜という情婦がおり、彼が刺青に強く惹かれていることと、春菜への嫉妬から茜も刺青を入れる決意をする。そして、茜は日本一の刺青師といわれる京都の彫経を訪ねた。彫経こと大和経五郎は、かつて妻に自分の信じる刺青の入れ方をやって逃げられ、それ以来、養女の勝子、弟子の春経と共に友禅染めの下絵書きとして生活していた。茜の申し出を渋る彫経だが、彼女の美しい肌に承諾をする。全裸になった茜の下に、何と、やはり全裸になった春経が横たわり、彼女の中に強引に入ってきた。経五郎の刺青の彫り方は、痛みをこらえるだけの肌を避け、肌の一番良い状態という性交中に墨を入れるというものだった。茜は衝撃と嫌悪を感じるが、次第に痛みと官能の繰り返す波の中に酔っていく。数日の後、茜は春経に心を惹かれるのを感じる。そして、経五郎一世一代の力作といってよい、国芳の〈本朝武者鏡橘姫〉の彫りものが完成した。さらに、経五郎は刺青の仕上げとして、弟子の春経に、人間の肌で一番痛さを感じる腋の下に、雪華の図を彫ることを許した。その茜が久しぶりに京を訪れたのは、経五郎の訃報を受け取り、刺青を入れたときの約束である、最後の一針を入れる儀式“葬刺し”を受けるためだった。霊前に座った茜は勝子から意外なこと聞く。春経が自殺したこと、そして藤江田の情婦の春菜が、実は経五郎の元の妻で、二人の間に生まれた子供が春経だった。春経はとあることから、自分の師匠が父であることを知り、母に一生消えぬ重荷を背負わせた父を憎み、経五郎の目の前で刺青の短刀を突きたてて死んだという。密かに慕っていた春経と、養父を失うという二重の悲しみにくれる勝子の手で、茜は“葬刺し”を受けた。茜は一生消えない重みを背に感じながら京都をあとにするのだった。