敗戦色の色濃い昭和十三年。中国山地の山並みに囲まれた世帯数二、三十の日暮谷の村で生まれ育った十八歳の犬丸継男は、村一番の秀才として村人の尊敬と期待を集めていたが、自分では、早く戦場に出て国のために戦いたいと願っていた。駐在所まで片道三十分という辺鄙なこの村は、近親婚が多く、ほとんどの者が親類関係にある。継男はたった一人の肉親、祖母のはんをおいて師範学校へ行くことはできず、独学で検定試験を受け、教師になろうと考えていた。十八歳にもなると、継男にも村の人間関係の裏側が分るようになり、ある夜、散歩をしていると、人妻のえり子と村の有力者、赤木勇造が絡み合っているのを目撃する。赤木は夜這いの取り締りを提案した張本人で、彼のことを汚いと思うが、同時に自身の性のうずきも強く感じるのだった。数日後、継男はえり子の所を訪ね、赤木のことを話すと、彼女は簡単に彼に体を開いた。また継男は、はんに金を借りに来るミオコとも関係を持つが、そんな性の世界に溺れず、彼は幼なじみのやすよに思いを寄せていた。そんな継男は兵役検査を受けるが、なんと、結核と診断されてしまう。これまで秀才と継男をもてはやしていた村人もコロッと態度を変え、彼を避けるようになる。そんな中で、和子が親切にしてくれたが、それは継男の結核を知らなかっただけで、病気を知ると、他の村人以上に冷たくなった。そして、心のよりどころだったやすよも嫁に行くことになった。継男は腹いせに和子に夜這いをかけるが、間違えて母の常代の布団に入ってしまい、母娘二人からなじられる。退散する継男は帰路、村の男たちが、他処者の坂本を袋叩きにして殺すのを目撃し、翌日、駐在に報せようとするが、村人の無言の威圧で口に出せない。その頃、やすよが離縁されて家に戻ってきた。継男と付き合っていたのが原因という。二人は風呂場で抱き合った。そして、汚れきった村を戦場にしようと決意する。一度は銃や日本刀を押収された継男だが、大阪に出て再び武器を調達すると、やすよに「村を戦場にします、その日は村に近寄らないで下さい……」と手紙を書いた。その日、村の送電線を切ると、丑三つの刻も近い頃、学生服にゲートルを巻き、武装した継男は、「犬丸継男君、万歳!」と叫ぶと、三十人に及ぶ大量殺戮に出発した。